週刊 奥の院 6.25


■ 花森安治戯文集1 [逆立ちの世の中]ほか』LLPブックエンド 2500円+税
 花森生誕100年記念出版。1954年の「逆立ちの世の中」(河出)に、『暮しの手帖』以外に寄稿したエッセイや対談などを加える。
 花森(1911〜78)は神戸生まれ。東京帝大卒業後、伊東胡蝶園(化粧品)宣伝部勤務、佐野繁次郎に広告デザインを学ぶ。太平洋戦争に応召するが病気除隊、大政翼賛会で広告。46年大橋鎭子と「スタイルブック」創刊、ついで48年「美しい暮しの手帖」(のち「暮しの手帖」)を創刊。生活者の視点に立ち、企業の広告を載せない方針は今も受け継がれている。おかっぱ頭でスカートはいた頑固オヤジのイメージ。
「女だけの政治」から。

……おそらく、五十年まえには、女がズボンをはくといったら、日本どころか、ヨーロッパでも、アメリカでも、みんな冗談とおもったろう。もしホントに女がズボンをはいたら、一体どんなことになるだろうと、みんな笑ったにちがいない。……日本では、女がズボンをはく、といっておかしかった時代があったとしても、そのころ、おとなりの中国では、女のひともズボンをはいていたのである。いまの日本でも、スカートは女のはくものとみんなきめているようだが、それは洋服の場合だけである。和服だと、女も男も、みんなワンピースを着ている。男のハカマは、あれはプリーツのロングスカートでもある。

 世の中の仕組み、シキタリ、ナラワシに異を唱える。
 

 花森安治は天才的な編集者であると同時に、戦後日本を代表する思想家のひとりだったと思います。ただし、思想家にもいろいろあるけど、かれは精緻な理論や体系によって複雑な経験をスパスパ切り分けてくれるタイプの人じゃないですね。しばしば勘や好みで動き、成功したり失敗したり、いちいち実地にためしながらかんがえる実践主義的な思想家だった。
 そんな独特の思想家が戦争と敗戦、米軍による占領とその反動としての「逆コース」へと、あわただしく変化する時代のなかでいくつかの失敗を経験し、こんどこそ、あらゆる「おべんちゃら」と手を切って、いいたいことをいい、やりたいことをわがままにつらぬく「紙の砦」をじぶんの手できずこうと決心した。それが『暮しの手帖』だった。そのように腹をくくる寸前の、まだ揺れている中年の花森安治がこの小さな本の中にいる。解説:津野海太郎

 企業広告、国策広告に携わった経歴をもつ。自分を含めた商業ジャーナリズム、会社社会、政治・外交……での「おべんちゃら」を批判する。その批判は花森自身が、読者に対して「おべんちゃら」をしていることでもあると、自戒している。
(平野)「女子の古本市」初日、大盛況でありました。ご来店いただいた皆様ありがとうございます。開店前に待っておられたのは、あんだけ言うたのに野郎ばっかり。女性はおひとりだけ。どうなることかと思っておりましたら、お昼頃には淑女でいっぱい。ほんとうに店内の“かほり”が違うのですよ。私が言うと“変態”みたい。
 本日、岡崎さんと山本さんのトーク(御免、予約の方のみ、満員です)。さらに、山本さん選の『上林暁傑作小説集 星を撒いた街』(夏葉社)先行販売です。天気が悪くても、来てちょうだい。
(平野)