週刊 奥の院 6.15

■ 画・落合登  文・西川清之
『絵本 落語長屋』 ちくま文庫 
1000円+税 
 元版は1967年青蛙房から刊行。
 落合(1911−68=明治44−昭和43)東京本芝生まれ。絵は独学。松竹洋画宣伝美術部、東宝美術課・宣伝プロデューサー。
 西川(1911−94=明治44−平成6)東京神田生まれ。新聞記者。日活、NHKで脚本。長谷川伸門下。
 ふたりとも江戸っ子の血を受け継いでいる。
 解説は中野翠さん。10年以上前に「青蛙房」版を入手。頭の中にある落語世界の情景・人物・地図、さらに着物・着こなし・小道具などは、あいまいなイメージ。
「それらのディテールの、こなれた巧さにホレボレさせられる。キモノ、とりわけ袖の表情ですね。キモノの柄も楽しい見ものだ。大道具・小道具に関しても、いかにも本当らしく、美しく描かれている」
 文章について。ビギナー向けの「キャラクター・カタログ」的なものとは違い、「著者個人の思いいれや人間観や社会観を展開」している。
 カバーの絵は「明烏」の最後の場面。町内の遊び人ふたり、堅物の若旦那を吉原に連れて行き、遊びの指南。モテルのは若旦那だけ。翌朝、部屋に「そろそろ帰りましょ」と迎えに行ったところ。
 本文では、若旦那の台詞が脇に。
あなた方さきへ帰れるもんなら帰ってごらんなさい
 このあと「落ち」。

■ 木村泰司 『名画の言い分』 ちくま文庫 950円+税
第1章 西洋美術の発祥〜古代ギリシアから中世への旅
第2章 フィレンツェに咲いたルネサンスの華
第3章 神の名のもとに〜キリスト教絵画の変容
第4章 フェイス〜肖像画という名の伝記
第5章 天使からのメッセージ〜天使はキューピッドではない!
第6章 人生の喜び〜オランダ絵画の魅力
第7章 エデンの園からの解放〜風景画の始まりと変遷
第8章 印象派登場〜モダンアートの始まり
 カラー図版多数。

「美術は見るものではなく、読むものです」
「現代の日本では、やたら『感性で美術を見る』――好きか嫌いか、感動するかしないか、といった尺度で見る――などといいますが、感性で近代以前の西洋美術を見ることなど不可能です。なぜならば西洋美術は当然、西洋文明のなかで生まれてきたもので、この西洋文明自体が『人間の感性などあてにならない。理性的でなければ』というところから始まっているからです」
「画家が自由に自分の好きな絵を描くようになったのは18世紀以降のこと。それ以前の作品は、古代ギリシアに遡るまで、ある一定のメッセージを伝えるもので、そこには明確な意図が内在している」
 西洋美術史とは、それらを正確に読み解いて、作品の世界を味わうこと。読み解くためには歴史、政治、宗教、思想、社会背景など膨大な知識が必要。欧米人も美術史を学ばないと西洋美術を理解できない……。
 でも著者は、「時代のエッセンスをつかむ」「おおまかでいい」と言う。
「それを知れば、その時代になぜその絵が描かれているのかがわかる」
「そのうえで、作品にどんなメッセージが託されているのかを読み解く」
 これが美術鑑賞の醍醐味であり、楽しさ・面白さを味わう早道だと。
 西洋文明発祥は古代ギリシア。それ以前の文明はすべて神の仕業、自然現象も神。ギリシアで人間中心・理性=哲学が生まれ、学問・美術が発展する。ローマに継承されるが、キリスト教でまた神に戻る。ルネサンスで再生し今日に至る。美術について当然理性的に向き合わなければ理解できない。
「人間中心」。たとえば、紀元前525年頃の青年立像彫刻『クロイノス墓碑像』は支え(支柱)のない初の“丸彫り彫刻”。
「そこには当時の人々の意識が表われています。それは、神様によって立たされているのではなく、人間の意思、自分の意思で力強く立っている、ということを示している」
“男性ヌード”にも意味がある。
「西洋の美の原点の一つは、男性の美しさ」
 男性が美しくあることが重要で、男性の理想像を追求。同性愛もタブー視しない。女性は着衣。男尊女卑の社会だった。女性のヌードは次の時代になってから限定的に現れる、……。
(平野)