週刊 奥の院

■ 織田作之助著 要麗之介編・解説
『俗臭  織田作之助【初出】作品集』 インパクト出版会 
2800円+税

 収録作品: 雨 俗臭 放浪 わが町 四つの都
 すべて、初出誌『海風』(同人誌)を底本にしている。本書はなぜ【初出】にこだわるのか。
 単行本収録の際、すべて改稿されている。
「……おもしろいのは、若書きであったり、ときには忽卒な草稿のままであったりするような【初出】のほう……」
 また、織田の活動期間は1939年から45年頃、戦争の最中で「検閲」「統制」のため単行本収録にあたって「作者自身削除せざるをえなかった本音や肉声がこめられている」。
 そして、「これまで、ただのいちども、これら初出ヴァージョンが単行本に収録されてこなかった」から。
 表題作「俗臭」は39年9月発表。第10回芥川賞候補。
 この年、織田は繊維業界紙に就職、結婚。「ニートな文学青年」から「社会人作家」になっての第一作。
 旧家の兄弟の中でひとり「ぐうたら者」が様々な下層労働に従事し、「世人の忌み嫌ふある種族」の女性と結婚する。家族に妨害され離別させられるが、再び駈け落ちする。

……プロレタリア文学の闘士たちよりも「社会主義者」なのであり、日本の社会制度の根底にまで届きうるラディカルな視線……(解説者)

 この作品もこれまで読まれているものは、初出稿からかなり訂正されている。
■ 鶴ヶ谷真一『紙背に微光あり 読書の喜び』 平凡社 2400円+税

 1946年生まれ、白水社編集を経て、エッセイスト。『書を読んで羊を失う』(元版・白水社・絶版、平凡社ライブラリー)でエッセイスト・クラブ賞。
「眼光紙背に徹す」より柔らかい感じ。言葉に表現できない感覚や記憶をどう表現するか、古今東西の文学作品を題材に考察。イギリスの作家ジョージ・ギッシングの随想――夏の夕暮れ、薔薇の香りに包まれながら読書にふけり、初めは夕映えを頼りに、後には満月の光で読む――を引いて、「このとき、夕映えとも月光ともつかぬ微光が紙背をかすかにてらしたにちがいない」と想像する。
 プルーストと日本の「水中花」、明治の学者大槻如電大槻文彦の兄)による三味線の起源説と彼の腕前、陶淵明「帰去来賦」贋作はじめ古文書贋作者たちなど、和漢洋の博識と参考文献が披露される。

(平野)