週刊 奥の院

楜沢(くるみさわ)健 『だから、鶴彬  抵抗する17文字』 春陽堂 1400円+税
 著者は1966年生まれ、文芸評論家、プロレタリア文学研究。
「川柳は庶民の共同財産」「穿ちこそ、川柳の生命」「川柳は落書きである」
 権力批判と同時に、民衆の弱点・欠点も容赦なく批判する。
「鶴彬は世界文学」「鶴彬の川柳は古くならない」「鶴彬の川柳とともに、いまをつかみたい」。彼の作品と生涯を、日本近代史に重ねる。
鶴彬。「手と足をもいで丸太にしてかへし」の句に代表される反戦・反体制の作家。1909(明治42)年1月1日、石川県高松町生まれ。15歳で新聞の川柳投稿欄入選。27年「高松プロレタリア川柳会」、治安維持法違反で逮捕。30年入隊、暴力制裁に抗議、非合法出版持ち込みで軍法会議、懲役2年。33年除隊。37年治安維持法違反容疑、38年8月獄中で赤痢、死去、29歳。
新聞入選作  燐寸の棒の燃焼にも似た生命
 著者の解説は、

 皮肉なことに、官憲の拷問により赤痢に罹り殺された鶴彬自身の、わずか29年8ヵ月という、「燐寸の棒の燃焼にも似た」短く壮絶な一生を暗示する……。

 川柳雑誌デビュー作  暴風と海の恋を見ましたか
 16歳、文字通りの恋の歌。

 著者は「川柳は落書き」と書いた。
 たとえば、鶴の  タマ除けを産めよ殖やせよ勲章やろう
 誰もが知っている標語・スローガンをネタに、権力を笑う。そして、権力に抵抗できない民衆にも突きつける。
 落書きだから残りにくい、残らない、文学史でも埋もれている。

文学の最底辺にうごめく膨大な数の読者=作者の記録と歴史は、いまも闇に埋もれたままである。

(平野)