週刊 奥の院

 来年の大河ドラマ先取り?
樋口大祐 変貌する清盛 『平家物語』を書きかえる  吉川弘文館(歴史文化ライブラリー)1700円+税
 著者は、1968年西宮市生まれ。神戸大学大学院人文学研究科准教授。
(目次)
子どもたちの清盛――プロローグ  「おごる平家」の射程距離 子ども向け「源平」物語の系譜 他
同時代人にとっての清盛  『平家物語』以外の物語 説話と清盛 九条兼実の日記 他
平家物語』の中の清盛  若き日の清盛 清盛の「悪行」 死後の評価 他
検非違使文学としての『平家物語』  都市の多重所属者たち 検非違使別当平時忠 他
変貌する清盛  人格的スキャンダル 『平家物語』の民衆化と清盛 近世知識人の評価 他
平家物語』を書きかえる  明治の小説 吉川英治 他
海港都市と「清盛の子どもたち」の系譜――エピローグ  
「おごる平家は久しからず・・・・・・」という「平家物語」の名文句。“歴史の教訓”となっているし、「おごり」と「滅び」が結び付けられて、定番の比喩に使われる。
 また、「源平」の物語やドラマでは、「平家」は敵役・悪役に描かれる。なぜ?

平清盛は実在した歴史上の人物であり、『平家』は歴史を対象とした物語である。歴史を対象とした物語である以上、読者は物語中の清盛を実在の清盛と重ね合わせて読むのがふつうであり、前者が後者と矛盾している場合、読者は前者の物語を楽しむ権利と同時に、八百数十年前に生きて死んでいった、実在の清盛に対する一種の緊張関係に立つことになるという自覚をも要請されるだろう。

 悪人のイメージはどのように作られ、変貌してきたのかを検討する。
「エピローグ」は、海の窓口・敏売浦(「みぬめ」、「みるめ」とも)や福原、王朝世界と須磨・明石、移住者、西洋の異端者、モダニズムなど、古代から現代にいたる「海港都市」の地政学的・人文学的歴史を見る。
(平野)