週刊 奥の院


竹田いさみ 『世界史をつくった海賊』 ちくま新書 760円+税
 以前紹介した日本中世の“海賊”=海の民とは異なる、まさしく“海賊”=暴力装置にスポットをあてる。
 産業振興、外国資本、資源開発、領土拡大、戦争などで国家は豊かになり繁栄してきた。しかし、16〜17世紀のイギリスは全く違う方法だった。
「海賊行為」

産業革命によって大英帝国は確立されたが、その元手になる資金の一部は紛れもなく海賊がもたらした略奪品、つまり“海賊マネー”であった。「海賊(Pirates)」は「海」を舞台に強盗を行う犯罪者だが、イギリス人の間では広く「海の犬(Sea Dogs)」と呼ばれていた。
 イギリスは「海賊」を犯罪者としてではなく、近代国家の礎を築いた「英雄」として再定義することで、海賊行為を見事に合法化、正当化してきたのである。

 国立海事博物館では、フランシス・ドレークを「エリザベス女王時代の探検家」――確かにイギリス人として初の世界一周航海をした――と紹介している。彼は「ナイト」の称号を与えられたが、スペイン・ポルトガルから見れば「略奪王」である。エリザベスの「海洋国家」は「海賊国家」だった。

1 英雄としての海賊――ドレークの世界周航
2 海洋覇権のゆくえ――イギリス、スペイン、オランダ、フランスの戦い
3 スパイス争奪戦――世界貿易と商社の誕生
4 コーヒーから紅茶へ――資本の発想と近代社会の成熟
5 強奪される奴隷――カリブ海の砂糖貿易

 著者は獨協大学教授、国際政治史、オーストラリア・東南アジア研究。最近のテーマは海洋安全保障(ソマリアの海賊など)。
(平野)