週刊 奥の院


安野光雅 半藤一利 中村愿 『史記』と日本人 平凡社 1600円+税
一 司馬遷――“生き恥さらした男”の人生
二 「遊侠列伝」「刺客列伝」――ぴりりと辛い人たち
三 女傑・呂后と酷吏たち――“虐待”の裏側
四 孔子さまとその時代――思想と詩歌で読む『史記
五 『論語』のこと、墨子のこと――『史記』と現代
六 項羽と劉邦――楚漢のたたかい

 中村は1947年福岡県生まれ。中国美術・歴史研究家で、神田神保町で中国美術・文化専門店「蘭花堂」経営。昨年安野と共著『三國志逍遥』(山川)を出版。安野と半藤は一昨年『三国志談義』(平凡社)を出した。

 司馬遷漢の武帝の太史令(記録官)。匈奴の捕虜になった李陵を弁護して宮刑になるが、宦官として宮廷に戻り、『史記』を完成させた(紀元前90頃)。

(安野) 私は戦前の人たち(歴史家)が言ったことをなかなか信じられなくて、網野善彦さんぐらいからどうやら信じられるようになった。だけど司馬遷は信じるに足る人なんです。なぜかというと宮刑になったから。
(中村)(武帝が死刑を命じたが)司馬遷が取り組んできた『史記』の編纂事業が大切なことは武帝もわかっている。遷本人は無論です。そこで宮刑を受けて生きのびた。ただ、彼自身はこうなった経緯を書き残したい思いがあった。書簡に「私はおめおめと生き延びるのだ」と。
(半藤)(遊侠列伝を読んで)ああ司馬遷は自分のことを書いていると思いました。たしかに身にそぐわないことをやったが、命懸けで仁を守った、義を守った、人として行わなければならないことを守ったのであって、そのことは誇りもしないし当然である、遊侠とはそういうものであると。

史記』は一王朝の歴史ではなく、太古から司馬遷の時代まで2000年の歴史。孔子が紀元前550年頃、項羽と劉邦が紀元前200年頃。
 司馬遷が集め、まとめられるだけの史料がずっと残っていたという文明。長い長い歴史の流れ。

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『現代語訳 史記』 大木康 訳・解説 ちくま新書 780円+税
1 権力にあるもの――帝王
2 権力を目指すもの――英雄たち
3 権力を支えるもの――補弼の臣下たち
4 権力の周辺にあるもの――道化・名君・文学者
5 権力に刃向かうもの――刺客と反乱者
(平野)