週刊 奥の院


カルロ・フェルトリネッリ 麻生九美訳 『フェルトリネッリ イタリアの革命的出版社』 晶文社 3400円+税
 フェルトリネッリ家は19世紀に北イタリア(フェルトレ)の木材産業から財をなし、鉄道・銀行・繊維・運輸、さらに建設・不動産と事業を広げた。20世紀初めには世界的規模になっている。
 資産を継承したジャンジャコモ・フェルトリネッリ(1926〜1972)は第二次世界大戦後、共産党に入党。社会主義・労働運動の文書を収集して図書館を創設。
 55年出版社を創業。最初の本は『人工地獄:ナチス戦争犯罪小史』と『ネルー自叙伝』。反ファシズム、経済的・政治的構造が異なる国家の共存、第三世界の新しい力、を主題にした。2年後にソ連パステルナークの『ドクトル・ジバゴ』を出版。書店も開業した。
 本書の帯に並ぶ人名。ヘミングウェイモラヴィアネグリカルヴィーノエーコ、ガルシア=マルケス、ケルアック、ゲバラカストロ、ミラー、パステルナーク、パルガス=リョサ……。
 68年、ゲバラの日記を出版、版権料なしで世界の出版社に配った。イタリア語版の表紙には、「売り上げの純益は、全額ラテンアメリカの革命運動に寄付」と書かれていた。
 出版人というより、政治的人物・革命運動家。武装ゲリラ活動を展開、最後は鉄塔爆破計画の最中に爆死。
 著者は子息、カバージャケットの坊や、死別した時は10歳。出版社を継いでいる。

残されたものは? 父は私に魚から釣り針を外す方法や、肉の焼き方、雪道の歩き方、車の飛ばし方、そして、デザートの果物はリンゴやナシだけでなくてネクターも考慮に入れることを教えてくれた。今でも完全には分からない多くのことも。あるいはそれらは父と私の秘密の言葉の一部なのだ。

 書店はカルロの母インゲ(ジャンジャコモの3番めの妻・カバーの女性)が後継者となって、イタリア各地に出店している。
 書店について、多くの日本人旅行者・在住者がブログに記載している。ファミリーのかつての別荘(北イタリア・ガルダ湖)が有名なホテルになっているそう。
(平野)