週刊 奥の院


日販マーケティング本部編 『君に伝えたい本屋さんの思い出』 主婦と生活社 1429円+税
 取次販売会社「日販」の書店向け情報誌「日販通信」の巻頭エッセイ「書店との出会い」、長年の連載から60編を掲載する。物故者もおられる。

 僕はコドモのころから、本を読んで血となり肉となるような読み方はいやだった。タメになる本なんてのは、大きらいだ。ただ読んでいく。(田中小実昌
 近所の本屋は文房具とプラモも置いていて、目当てはプラモ。中学生になって、大人が文庫を読んでいるのに憧れ、中身も見ず買ったのは翻訳推理小説。意味も話もわからない。学校の先生に相談すると「最後まで読めばわかるんですよ」と一言。
先生を信じて最後まで読んで、びっくり。感動した。それから僕は、本屋さんに本を買うために通うようになる。核戦争で世界が滅亡しても、人類が僕一人になってしまっても、本屋さんが残っていれば、たぶん大丈夫だと思う。(森博嗣
 小学生時代の立ち読みのおかげで作家になった人、のちに義兄弟になる人と同じ日同じ時間同じ本屋にいたことが十数年たって判明した人、作家と同じ本屋にレモンを置いてこようと計画してできなかった人……、それぞれの本屋にまつわる“ちょっといい話”。
 
もひとつ。
 深夜まで開いている小さな本屋、7割がエロ本・AV,2割漫画。一つの棚だけ趣が違う。文庫だが、ミステリ、冒険小説、旅行記……。
ある晩、ちょうど店主が文庫棚の前にいたので、「この棚、気合い入ってますね」というと、店主はニヤリと笑い、しかしすぐにレジの方へ行ってしまった。(奥泉光
(平野)