週刊 奥の院


伊藤清彦 『盛岡さわや書店奮戦記』 論創社 1600円+税
 盛岡「さわや書店」の元店長さんに小田光雄さんがインタビュー。1954年岩手県一関生まれ、82年東京の「山下書店」にアルバイトで入社し、89年店長。91年故郷に戻り「さわや」に。2008年退職。
「山下」時代、文庫を担当して、手書きポップでこれと思う本を推奨、100冊単位の売り上げを出し続けた。なかには4ケタに達する本もあり、集英社文庫『Dr.ヘリオットのおかしな体験』は5年で1万冊を超えた。
 各出版社とも、全国の売り上げ資料を基に、本屋の規模に合わせて選書の基準をつくっている。Aランク平積み、Bランク複数展示、Cランク棚1冊など。本屋にとっても「基準」があるのはラクなのだけれど……、おもろないわな。どこの本屋も同じ本しか置いていないということになりかねない、なる。
 伊藤さんは、自分が面白いと思う本を見つけて、ポップでアピールし、お客さんをつかんでいった。実績を上げて出版社や取次会社に希望数を送品してもらえるようになる。
「さわや」に移り、近隣の本屋の棚構成を見てまわる。文庫の構成を調整したら、2週間で売り上げが2割上がる。『天国の本屋』(かまくら春秋社)を発掘して全国的なベストセラーになったことで有名だが、独自にヒットさせた本がたくさんある。
 読書体験をベースに、客層を考え、棚つくりをしていく。お客さんの方も反応してくれ話をするようになる。またちがうお客さんも来てくれる。
「それが棚つくりの意味だ」
 その「棚つくり」がなくなってきた。

(伊藤)まさにそうです。今は問われれば、すぐに端末にいきますから。
(小田)といってそれがすぐわかるかというと、とんでもなくまどろっこしい。端末で調べるだけで時間がかかってしまうから。
(伊藤)(品切れ情報とか入荷予定など)さっと答えてあげると、全く印象がちがう。

 そうです。そのとおりの状況です。日々反省。
 コンピュータ化に苦言。

(伊藤)(人件費が削られていく一方)経費をくうコンピュータ化は、はっきり言って必要なかった。(十数年で出版物販売金額が八千億円も落ちていることは)コンピュータ導入とパラレルですから、象徴的です。

 コンピュータの利用の仕方が決定的に間違っている、と。「さわや」が伸びた理由の一つはスリップの二重管理。売り上げスリップを責任者と担当者が分析し、(知識のある)責任者が説明して指示を出す。コンピュータ化して、画面で売り上げを確認しても記憶には残らない。「何よりも、題名と表紙が一致しません。これは本当です」。

(小田)本の世界はあくまでミニマーケットで、それに見合うのがスリップによる管理と発注だったし、アナログといわれようが、それが正しかった。ところがコンピュータ化というマスマーケットの論理が、利用方法もまともに検討されずに導入された。
 その結果がどうであったか、コンピュータ化とパラレルに売上が落ちていった事実と即応していると考えるしかない。
(伊藤)同時に店員の知識も後退していきました。

 出版社も大手書店のポスデータでよいそうで、売り上げスリップ送付不要というところが増えている。中小・零細書店のデータはなくてもいいらしい。報奨もしなくてよいし。 
 メガ書店で膨大な量の本が目の前にあるのに棚を探さず検索画面で探す。この場合、どの棚を探せば? ということ。回遊すればいいのにと思うけど、目的の本だけ探せればいいのでしょう。
 海文堂クラスなら、ない本の方が多い。棚を探してなければ、ない。でも、突拍子もないところに入っていたりするから、ひょっとしたら、あの棚? という推理ごっこが必要なこともある。当店は、在庫品コンピュータ管理できていません。検索は「どんな本?」という参考材料で、「取次・版元在庫状況」確認です。
 で、トーハン新兵器「トーネッツV」が、ちんたらしていて……。
 だんだん本日の本から話が遠ざかっていくので、ここらで終了。
(平野)