週刊 奥の院


半藤一利 『あの戦争と日本人』 文藝春秋 1524円+税
『昭和史』(平凡社)『幕末史』(新潮社)に続く語り下ろし。
「あの戦争」としたのは、「太平洋戦争」とか「大東亜戦争」とか「十五年戦争」など、「名称ひとつにもイデオロギーが想像以上に加味されていて、窮屈だから」。
 第一章 幕末史と日本人
 第二章 日露戦争と日本人
 第三章 日露戦争後と日本人
 第四章 統帥権と日本人
 第五章 八紘一宇と日本人
 第六章 鬼畜米英と日本人
 第七章 戦艦大和と日本人
 第八章 特攻隊と日本人
 第九章 原子爆弾と日本人
 第十章 八月十五日と日本人
 第十一章 昭和天皇と日本人
 
 著者の「歴史探偵」のスタートは、幼少時におばあさん(旧長岡藩)から聞いた「反薩長」。学校で習うこととちがう。
 「絶対に負けない大日本帝国」を信じていた軍国少年が空襲で死ぬ思いをした。負けて大人たちはコロッと民主主義者に転向した。
 大学を卒業して出版社に入り、最初に担当した坂口安吾に歴史の読み方(常識的・合理的見方と推理)を教わる。
「太平洋戦争を勉強する会」で戦争体験者の話を聞き研究するうちに、『昭和史』を書き、『幕末史』に遡る。
 司馬遼太郎が「統帥権が昭和史をかき回した」と。では「統帥権」はいつ生まれたのか? 
 調べていくと、明治憲法制定時(明治22)には既に確立していた。
 さらに調べると「西南戦争」(明治10)に辿りつく。
 政府軍の参謀長・山形有朋が作戦にいちいち政府の許可がいるのを不便に感じ、「参謀本部条例」を制定する(明治11)。
 参謀本部が独立した機関となり陸軍卿に優越する地位に。政府から独立した軍隊指揮権=統帥権
「まだ憲法もないうちに、日本はとっくに軍事国家への道を歩き出していた」
 目次にはないが、戦争でのジャーナリズム・世論の威力(大きな力)についても。
(平野)