週刊 奥の院 第91号+1の2


石田五郎 『天文屋渡世』 みすず書房大人の本棚 2800円+税
天文科学者の随想集。1988年筑摩書房より。冬の星座を話しながら山口誓子の句を鑑賞する。若いカップルに星と神話と詩と映画を語らせる。そして、東西の古典や歌舞伎・能もおりまぜて。
 1924(大正13)年東京生まれ(92年死去)。東大天文学科卒業、49年助手から84年教授退官までのうち34年を付属の天文台や観測所で暮らした。自称「天文屋」。退職後名刺に「天文屋」の肩書きを使用していた。
「一体、何をお売りになります?」と尋ねる人も。
「〜家」という高雅な香りより、「〜屋」の生活臭をとった。
「あえて下世話を気取るトノサマ気分ではなく、生活をかけたプロ根性に徹しようという心意気」
天文学の内外に目をすえて人の気がつかない色々な問題を発掘することと思うのだが、この商売どうも金もうけとは余り縁がないようである」
野尻抱影“初代天文屋”の名を贈っている。もちろん尊敬の念を込めて。
 パラッとめくったページに「神戸の海洋気象台〜」の一節があった。
「ライブラリーを創る」という文章(東大付属図書館月報 昭和59.3月号)。
 神戸海洋気象台を訪問したとき、ここに200冊あまりの天文書が活用されずにあった。貴重な本ばかりで、「垂涎の稀覯本揃い」。1920年創設時の責任者とその後の担当者が「金に糸目をつけずに買ったもの」。「激しい執念と予算の豪華さが感じられる」。
 彼らが異動になり、本は活用されずガラス戸棚に「安置されたまま」だった。
「ライブラリーで一番大事なのは、ただ本を集めることではなく、十分に活用されることである」
(平野)