週刊 奥の院 第84号+1の3

僕たちは世界を変えることができない。

葉田甲太 『僕たちは世界を変えることができない。』 小学館 1300円+税 
 元版は2008年パレード刊。
1984年生まれ、兵庫県出身。日本医科大学2年生の時、郵便局でたまたま見た案内、150万円でカンボジアに小学校を建設できると知った。もともと国境なき医師団に憧れ、ボランティア活動をしていたが、ごく普通の遊び好きな大学生だった。
 ケータイのアドレスに入っている友人すべてにメールする。
カンボジアに小学校を建てよう!」
 大抵の人は驚く、怪しむ、退く。それでも好反応を示した人が3人、みな医大生。
 郵便局の「国際ボランティア貯金」の寄付先、「NGOジャパン・リリーフ・フォア・カンボジア」に連絡。
「2005年8月28日、くそ暑い夏の日。僕らのカンボジア小学校建設が決まった瞬間だった」
 資金集めのためチャリティーイベントを企画実行する。アマチュアバンド大会とかフリマなどの案もあったが、クラブイベント――ディスコでパーティーに。まだ「スーパーフリー事件」の余韻があった頃。
 六本木のクラブに偵察。
  

僕らの好きなMr.Childrenなんてかかりやしない。かかるのは、僕らが聞いたことのないhiphopかトランスだ。僕はこんなところでイベントを開き、カンボジアに小学校を建てるのかと思うと頭がクラクラした。でも、150万円稼ぐ方法なんてほかに思いつかない。男が一度決めた以上、やるしかない。
 僕らはあの日、敗北感たっぷりで、クラブを後にした。

 
 集客は、とにかくナンパ、ビラまき。
 12月初のイベント。来場者632人、収益62万円。大学の試験を落とし、留年の危機も省みず、1月カンボジアに旅立つ。
 地雷、スラム、エイズ、虐殺……、現地の人たちの話を聞き、現実の重さを知る。
 
 

 そう、僕にとってカンボジアは衝撃の連続でした。
 でも、一番驚いたのはみんな笑顔だったこと。
 お金がなくても、洋服がボロボロでも、彼らはいつも笑顔でした。なぜでしょうか?
 僕はきっと彼らより豊かです。(略)その反面、僕はカンボジアを支援するために現地へ足を運んだのに、逆に彼らから大事なものを学びました。 
 一番近くにある家族や友達を大切にし、身の周りのものに感謝すること。TVでは毎日のように親が子を殺し、子が親を殺すニュースが流れます。よく分からないけど、その答えは貧しい国と言われるカンボジアにあったような気がします。

 
 活動を始めて1年半、参加者も増えたが、最後は目標額に足りず。4人が貯金を出し合い達成した。現在団体は25大学51人のボランティアに成長。彼らは本当にごく普通の大学生、イベント勧誘でナンパの腕も上がった。活動や恋や勉学、それに性の欲求にも悩む。そんな中で自分たちが楽しみながら、人のためになることを見つけ出した。
 本書、映画化決定している。
 書名と同じ「僕たちは世界を変えることができない。
 深作健太監督、向井理主演、2011年秋公開。
 一足早く、メンバーの石松宏章さんが『マジでガチなボランティア』(講談社文庫)を出版していて、そのドキュメンタリー映画が12月4日から東京渋谷で公開されている。
(平野)