週刊 奥の院 第82号+1の5

定食と文学

今 柊二 『定食と文学』 本の雑誌社 1400円+税
 定食評論家。食通作家の食談議や食散歩の本はあるが、この人は「定食」にこだわる。定食=「ご飯+汁+おかず」の視点で文学を楽しむ。





文学作品(プラスα)に描かれた定食および定食的メニューを作品とともに紹介し、さらに作品にちなんだ定食を私が実際に食べに行った記録である。読んだ上で、足を運んで食べに行くと、作品がさらに自分の「栄養」となっていくことがひしひしとわかった。文学散歩も作品に対する理解を強く促進するが、文学に関連して「食べる」ことはそれと同等以上の効果がある。

 林芙美子の『放浪記』。

関東大震災前後から昭和初期における生き生きとした「食」の記録として実に読みごたえがある。また、食事をするときにも、主人公がかなり定食的にきちんと食事をしている様が見受けられ、上京者としての自分が読むと、都会でちゃんと一人で生きていこうという気持ちになるのだった。

新宿の飯屋の場面、労働者が食べているのは「大きな飯丼、葱と小間切れの肉豆腐、濁った味噌汁、十銭」。主人公は、「ご飯、ごった煮、お新香、十二銭」。最低の定食より少し高い。
これは今さんが発見した法則――もっとも安いものから二番目のものによいものが多い――に則っている。ほんまか?
横浜で獅子文六を食べ、大阪で「織田作之助」「宮本輝」「はるき悦巳を食す。漱石」の朝食、「鷗外」の青魚(さば)味噌煮について考察する。他に、「三大定食映画監督」「児童文学と定食」「ブラジル定食」など。
(平野)