週刊 奥の院 第78号+1の4&今週のベストセラー

堺利彦 『堺利彦伝』 中公文庫 629円+税 
 序 
 第一期 豊津時代 
 第二期 東京学生時代 
 第三期 大阪時代 
 第四期 二度目の東京時代 
 第五期 福岡時代 
 第六期 毛利家編輯時代  
 先師のおもかげ 荒畑寒村 
 解説 黒岩比佐子

 前に紹介した、黒岩比佐子『パンとペン』は、幸徳秋水亡き後=大逆事件後の「堺利彦」であった。本書は秋水と出会う前=「萬朝報」入社以前の「堺」の姿。
 1925(大正14)年雑誌『改造』に連載、翌年改造社から刊行。本書の「序」を書いたのは同年6月20日。

私は「日本共産党事件」のため、禁錮十月(未決通算百二十日)の刑を受けるべく、今日入獄します。その前に、この自伝を全部書きあげる腹案でありましたが、やっと前半だけしかまとまりませんでした。

 堺は1870(明治3)年11月生まれ、17歳まで福岡県豊前国京都(みやこ)郡豊津で育つ。田舎の優等生が他家の養子となり上京、名門「一高」に合格。その先は帝大、立身出世という近代日本のエリートコースになるはずが……。
悪友らと酒と女に溺れ、学校から除名され、養家からは離縁される。実家の老親を養わねばならない。それでも20代半ばまで放蕩は続いた。25歳で結婚。それまでの生活を悔い改め、家庭を大事にした。その点、秋水や大杉栄の女性関係はずっとキャンダラスだった。
 本書は上巻のつもりで、下巻として29年同誌に連載したのだが、その内容は「自伝」というより「日本社会主義運動史」だった。堺は同志たちの生活を支えるが、運動は分裂して行く。大正デモクラシーと言いながら、時世は軍国主義に。
今週のベストセラーから(集計は10.20〜26)
 第1位はダントツで『ミシュランガイド 京都・大阪・神戸 2011』です。まあ、これはこれで当然。
 海文堂は「海の本」が大きな柱ですが、もう1本特別な「大黒柱」ならぬ「弁天柱」があります。「児童書」なのですよ。
 で、第2位は、ベンジーの毛布』(マイラ・ベリー・ブラウン、ドロシー・マリノ、間崎ルリ子 あすなろ書房。第3位は、渡辺淳一『孤舟』と並んで、『子どもに語るイギリスの昔話』(松岡享子 こぐま社)。第5位、『おかのうえのギリス』(マンロー・リーラ、ロバート・ローソン、こみやゆう 岩波書店 。第6位、『ある子どもの詩の庭で』(ロバート・ルイス・スティーヴンソン、イーヴ・ガーネット、間崎ルリ子 瑞雲舎。 魔法使いさん、大活躍。
(平野)