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■ 『妻の超然』 絲山秋子 新潮社 1400円+税
「妻の超然」「下戸の超然」「作家の超然」の3編からなる小説集。「妻の超然」は、35歳の時合コンで知り合い、後がないと結婚したものの、10年目にして心はすれ違い。「見え見え」の夫の行動に妻は考える。超然としていたつもりが実は怠惰ではなかったか。こんなばかな夫でも、作者の視線はちょっとやさしい。
「下戸の超然」。下戸の〈僕〉から見れば、ふだんはユニークな彼女なのに酒を飲むことでありきたりの女になる。なのになぜ飲むか。そしてなぜ〈僕〉にも飲ませようとするか。〈相部屋で入院しているみたい〉な下戸の会4人のお花見がしみじみしていいなあ。希薄な関係の方が心地良いこともあるんですね。
「作家の超然」は、主人公がまんま絲山さんに見えてしまい、これは全部本音かと、ひっかかりそうになったけれど、もちろんそんなわけないですよね。
それぞれの小説にそれぞれの舞台があり、その土地に根ざした言葉や土地の空気が感じられるのが、この人の持ち味ですよね。そういう共通点がありながらも、この3編はまったく違う作風で飽きさせない。ブンガクを読んでいる気分にさせてくれる貴重な作家です。
初めて読む方には『袋小路の男』か『ダーティ・ワーク』をお薦め。
この本の関連で、先月文庫になった同著者の『ばかもの』を紹介して、冒頭のシーンを週刊奥の院のもっと奥まで〜に推薦しようと思ってたのに…
そんなことするまでもなく、平野氏はとっくに読破しておられたのでありました。この人は海文堂のすべてのエッチなシーンのある本に目を通しているのか!紙版ではどのシーンが引用されてるのか知らないけど、やっぱ冒頭がいいな。めちゃおかしいし。でもその後のお話はうんとビターになります。絲山さんの小説には病気の人が多く出てくるのですが、『ばかもの』のアルコール依存症の描写も読んでいて苦しくなるほど迫真です。ま、詳しくは前日のブログ、または紙版で。
(熊木)