週刊 奥の院

窓の微風

週刊 奥の院 第68号 2010.8.13
お盆も休まずエライなー! でも、紙版は14日(土)になる。休んでおる。
■季村敏夫
『窓の微風 モダニズム詩断層』 みずのわ出版 3800円+税
 ジャケットは装幀者・林哲夫さんの絵「窓(イスタンブル)」。
 本書は昨秋の『山上の蜘蛛 神戸モダニズムと海港都市ノート』(同)に続く詩論集。本文340ページ、補註120ページ、人名索引23ページ、図版も多数。
「促される。なにものかに。促され、目覚める」
 神戸で育ち暮らし詩作する著者には、越えて行かなければならない「山」と言うべき詩人たちがいて、途上には無数の「詩」(「死」も含むか)が埋もれている。少しずつ掘り起こすことで、『兵庫文学雑誌事典――詩誌及関連雑誌』(仮称)という「山脈」が姿を現しつつある。
 書名と同じ「窓の微風」という一文がある。竹中郁が編集していた『羅針』[1924(大正13)2月創刊]の同人に富田彰という人がいた。数篇の詩が残る。ほとんど資料がない。1冊の詩集もないはずなのだが、『羅針』12号(1926.8)の巻末広告に[近刊]として『富田彰第一詩集 窓の微風』が予告されている。[四六版百二十頁定価壹圓半]。
 足立巻一の『評伝竹中郁』に少し出てくる。富田が『羅針』に参加したのは第3号(1925.2)、関西学院英文科の学生だった。京都の旧家の出で、同志社から転校、さらに立教に転学した。『航海表』を発行、竹中他『羅針』の仲間を招待掲載している。卒業後は森永キャラメルで宣伝、ほどなく京都の旅館で自殺した。原因不明、没年も未詳。
 著者はボードレールの詩「窓」を引きながら、幻の詩集に思いを馳せる。
ボードレールではないが、窓のうしろ側で生起したことにより、富田彰はみずからのいのちを断った。(中略)窓は外部、『自分以外の人々の中で生き』(山田兼士訳)ることである。窓の向う、空に浮かぶ受難の断片、世界につながる海光が控えていたこと、いうまでもない」
 http://sumus.exblog.jp/ 8.5参照
 本書を当店で買ってくださる読者がいることが嬉しい。
■さかもとけんいち
『浪華の古本屋 ぎっこんばったん』 SIC 1600円+税
 坂本健一さんは1923年(大正12)生まれ、大阪市北区黒崎町で古本屋「青空書房」を営む。敗戦後焼け跡の闇市で創業し、47年(昭和22)に現在地で開業。屋号は山手樹一郎の小説(『青空剣法』など)から。梶井基次郎ゆかりの雑誌『青空』も念頭にあった。
 刊行に際して山本一力さんが寄稿。
「ただの『古書店親爺のひとりごと』では断じてない。大阪の文化史とでも呼びたくなる名著だ。ご自身が描かれた挿絵がまた素晴らしい」
 商売のことや文学、作家との交流だけではなく、活動写真、路地、長屋、店屋など昭和の町の暮らしが再現されている。
 作家のことでひとつ。著名な作家が少年時代から出入り、家の人に無断で生物学の本や図鑑を持ち出して、映画館通い。父上は動物園の園長。誰だかわかりますよね。俳優でも多忙。
 付録に「大阪ふるほんやMAP’68」.
■『歴史と神戸』 281号 「幕末維新期の先進地・三田」 神戸史学会 630円(税込)
「川本幸民特集にあたって」  NPO九鬼奔流で町おこしをする会
蘭学者川本幸民――郷土の異才、日本化学の開拓者――」  芝哲夫
「最後の藩主九鬼隆義とその時代」  高田義久
三田藩プロテスタントと不屈の北海道開拓」  川崎喜久子
 三田と綾部の九鬼家は九鬼水軍の末裔。相続争いで徳川幕府により二分され、鳥羽から内陸部に移された。三田藩では池と堀で船の水練を続けた。
 幕末、藩主は兵制改革、人材登用、財政改革など近代思想を取り入れ、キリスト教を受け入れた。明治になると藩主自ら洗礼を受け、実業界に入った。藩士たちも経済、政治、宗教、教育など神戸の近代化に貢献した。また北海道開拓にも献身している。
■早川タダノリ
『決戦生活 広告チラシや雑誌は戦争にどれだけ奉仕したか』 合同出版 1800円+税
 戦局、敗色濃厚になると、時の内閣は国民に一層「敵愾心を激成」させ、「闘魂」を奮い立たせるべく報道機関に世論操作を「指導」した。たとえば、昭和19年12月の『主婦の友』の奇数ページには「アメリカ人をぶち殺せ」と印刷された。『少女倶楽部』表紙の少女のお習字は「米英撃滅」。受験雑誌『学生』の記事では、「英語は日本語である」と。帝国内で通用する外国語はすべて「日本の一方言」だから「学習するべき」。他にも、古着を再生したブラウスを「決戦型ブラウス」と呼び、「決戦盆踊り」のレコードが発売される。軍人や知識人が「トンデモ言論・商品」を作り出した。
 敗戦を期に「トンデモ」は鳴りを潜めるが、時々蘇える。「神の国」とか「あの戦争は正しかった」など。巨大メディアや広告屋による操作や仕掛けもある。ご用心。
◇ヨソサマのイベント
■「ボストン美術館 浮世絵名品展 錦絵の黄金時代」
8.14〜9.26 神戸市立博物館(078−391−0035) 月曜休館(9.20開館) 一般1400円(前売り1200円) 高大生1000円(850円) 小中生600円(450円)
■「元町映画館」 8.21(土)オープン (078−366−2636)
 元町通4丁目、当店から西徒歩3分にミニシアター誕生。
 オープニング作品 『狙った恋の落とし方』(2008 中国) 『赤毛のアン グリーンゲーブルズへの道』(1989再編集 日本)
 http://www.motoei.com/
◇今週のもっと奥まで〜
■書き下ろしアンソロジー 『ひんやり』 双葉文庫 619円+税
 人気作家たちが贈る真夏のメルヘン集。怪談に、美少年と若妻も。引用は紙版で。
(平野)また公開したのが消えて書き直し。最初のとは少し違っていますが、ご容赦を。しかし、人が書いたものを勝手に消すかー?