週刊 奥の院

傷だらけの店長

週刊 奥の院 第67号 2010.8.6
◇業界もの
■伊達雅彦
『傷だらけの店長 それでもやらねばならない』 PARCO出版 1300円+税
 首都圏のチェーン書店の元店長。業界紙新文化」連載。
 これまで書店員が書く本は、経営・営業論、店頭日記、書評など。POPにこだわった本もあった。どちらかと言えば明るい前向きの本。
 本書は真逆。暗く辛い。ノルマ、万引き、低賃金、長時間労働、首切り、社内の人間関係……。目次には、「誰もいない店内で」「ただ許せないだけなんだ」「消えてくれ!」「本屋なんかやめておけ……?」「私はいつだって怒っている」などが並ぶ。
 業界の現状は厳しい、未来も不安だらけだ。私のようにおバカ話を書いているわけにはいかないだろう。私はこれからも書くけどね。会社の方針とか上役の人間性とか重要。その点は海文堂、goodではないかと。
 著者は、勤務する店舗の撤退に伴い退職。慰留も他社からの誘いも断わった。
「利益確保と、そのための効率化のみに流されていく業界への不信感、自分の考える店づくりがことごとく否定される体制への不満、日々の余裕のなさ、会社に対するやりきれない思い……」
 閉店が決まった瞬間に、かろうじて本屋につながっていたものが音をたてて切れた、と言う。
 解説者が、「『傷だらけの店長』は、いまも全国各地で奮闘中である」と書く。
どうか奮闘し続けてください。私はヒラの平野なので、ほんとうに無責任ですが、あなたたちがいなくなったら本屋は困ります。
戦争と平和
品川正治 清水眞砂子
『戦争を伝えることば いらだつ若者を前にして』 かもがわ出版 1500円+税
 青山学院主催「戦争体験の敬称と平和認識」の講演と対話(2009.12.16)より。品川さんは1924年神戸生まれ。平和と護憲を訴える財界のリーダー。中国戦線で戦った。戦友を助けられなかったことが大きなトラウマだった。自分の体内にも銃弾が残っている。ある講演会、戦友や遺族が集まっていて、その方たちに手をついて謝ってから、実戦のことや銃弾のことを話せるようになった。80歳近くになってやっとだ。孫娘にも語らなかった。その孫が、ある講演で品川さんの個人体験を聴いた。どうして話してくれなかったのかと問う。知っていたら、足の傷を毎晩揉んであげたのにと。
 清水さんは1941年朝鮮生まれ、児童文学者。自伝以外では体験を話していない。幼少であったことや、悲惨な話に対する違和感があった。戦争が終わったことはうれしかった。平和は戦争を生きのびた後にやってきた。そして「平和を生きのびる」ことを考え続けてきた。しかし平和であるはずの現代社会、若い人たちにとっては「平和を生きのびる」ことが困難な時代であると訴える。
■正村公宏
『日本の近代と現代 歴史をどう読むか』 NTT出版 2200円+税
「二十一世紀を生きる日本人は、十九世紀と二〇世紀の日本の歴史が私たちにどのような問題を投げかけているかを注意深く読み解く必要がある」
「成功」と同時に「失敗」を研究しなければならない。「失敗」を認めて変革の努力をしなければ、社会の再建はできない。だが日本人は失敗を繰り返した。
 近代。近代国家の実現を目指す取り組みで、かなりの成功を収めていたが、領土と勢力圏の拡大を追求するようになり、大規模な戦争を引き起こして破滅した。なぜ?
 現代。大戦による破壊から立ち直り、予想を超える経済成長を実現し、所得を引き上げることに成功したが、経済の不均衡を拡大させ、社会の危機を招き寄せた。
 経済学者の立場から、経済政策・社会政策・対外政策の誤りを、開国・維新に遡って考えてゆく。
 第1章 歴史をどう読むか  第2章 開国と維新  第3章 近代国家  第4章 帝国主義  第5章 体制の変革  第6章 経済の運営  弟7章 危機の時代  第8章 民主制を機能させるために何が必要か
■『日本の戦争 新装版』(1)満洲国の幻影  (2)太平洋戦争
毎日新聞社 各2800円+税
 旧『大日本帝国の戦争』。
 橋本治さんが各年のできごとをまとめてくれる。「満洲」について引用する。
明治維新後、近代化した日本は、当時の世界を支配する帝国主義の原則にのっとって韓国侵略を開始した。しかし、まだろくに近代化していない、『売るべき商品』と『作り出すための工場』を持たない日本には、侵略の必要がない。ないのにそれをする日本とはなにか?(中略)『意味はないが侵略だけはしたい』である。しかも、そこに戦争が起こって勝った。勝った日本はなにを手に入れたのか? 日露戦争の後、日本には一時的あるいは瞬間的に好景気が訪れたが、しかし日本は一貫して不景気だった。日本には、手に入れたものを意味あるものに変える力がなかったのだ。勝って得たものは、ただ『勝った』という栄光の記憶だけなのである。勝って得た『満洲』――それは、軍人達にとって栄光の記念碑だった。記念碑を守り、栄光を信じ、そして、脆弱な日本は幻想に押し潰された。それが『満洲』という幻想である」
「太平洋戦争」についても明解だ。なぜ日本はアメリカと戦争したのか? 中国との「聖戦」に勝利しなければならない。中国を支援する欧米は東南アジアから援助する。日本はここを押さえたい。そのためにはフィリピンを通る。そこにはアメリカがいる。日米主戦論者はドイツと接近する。アメリカはそれを好まないので、中国問題で譲歩を考える。「日本は中国から軍を引く、国民政府は満洲国を承認する、国民政府と満洲は合流して一つになる」条件。開戦前日本には、ドイツかアメリカかという選択肢があった。
「どっちがトクかはバカでも分かる。しかし、日本はバカ以下だったらしいのである」
◇ヨソサマのイベント
■「2010海上保安庁展」 8.10〜9.26 神戸海洋博物館 10時〜17時
月曜休館(但し 9.20開館、9.21休館) 入場料 大人500円 小中生250円 問い合わせは(社)神戸港振興協会 078−327−8963
◇今週のもっと奥まで〜
窪美澄 
ふがいない僕は空を見た』 新潮社 1400円+税
 1965年生まれ、アルバイト、広告制作会社勤務。出産後フリーライター
 本書収録の「ミクマリ」で第8回「女による女のためのR−18文学賞」大賞。
 高校生おれの母は助産師。人手が足りないとお産の手伝いをさせられる。父は幼い頃家出。おれには愛人がいる。コスプレ好き、12歳年上のあんず。ガールフレンドができてあんずと別れる。偶然スーパーで会って、頭の中は彼女でいっぱいになる。バイトを無断欠勤して彼女のマンションに。以下紙版で。
(平野)