kaibundo2010-07-10

■『ふたたび、時事ネタ』 斎藤美奈子 中央公論新社  1300円+税
そう、時事ネタ。小説と違って時事を題材にしたエッセイって、ほんとにあっという間に鮮度が落ちてしまいます。「今」起こっていることを「今」の尺度で解説してほしい、というのが読者の要求ですもんね。でも今読んでも新鮮!なのは斎藤美奈子が書いているからなのです。
この本は2007年1月から2009年12月まで『DAYS JAPAN』や『婦人公論』に連載された時事に関する評論をまとめたもの。政治的には安倍内閣から福田、麻生、そして鳩山民主党政権発足までの年月で、4者(プラス小泉元総理も含めて)の個性もこうして並べて一気に読むと違いがよく分かります。かつての文章に現時点での最新情報を加筆していることもあって、今改めて、あーそういうことだったのかと理解できたことも再三あり。たった3年前のことを大昔の出来事のように感じるほど、世の中の移り変わりは激しく、ほとんどのテーマが私の頭から検証されること無く消え去っていた事に気付かされました。あー、情けなや。
斎藤美奈子は文芸評論が専門だと思っていたけれど、要するに、批評家の目を持っているから対象は何だって構わないのでしょう。批判の矛先は政治家にとどまらず、マスコミやマスメディアに多く反省を求めている点がこの人の特長でもあります。

ニュースは最終回のない連続ドラマだ。それはいつでも『経過』にすぎない。結論を急がないこと。絶望もしないこと。それが『時事ネタ』歴10年で私が学んだ小さな教訓だ。

眼識だけに頼らず、まずデータをとことん調べてそれに基づいてすごくクリアな結論を導き出す。こんなに明晰に物事を識別できたらどんなにいいだろうと、内容よりも論旨の明快さにうっとりしてしまうのでありました。
(熊木)