週刊 奥の院

谷川俊太郎

 週刊 奥の院 第63号 2010.7.9
谷川俊太郎がやって来る! 
 谷川俊太郎×山田馨(編集者)の対談「詩と声――詩の魅力をとらえなおす」
 谷川さんが詩を読み、編集者山田さんが、これまで語られることのなかった作品の背景にある人生の軌跡や新解釈などを引き出す、スリリングな対談。
8.1(日)14:00〜 凮月堂ホール 料金1800円 定員150名
問い合わせは海文堂書店まで。
谷川俊太郎・山田馨
『ぼくはこうやって詩を書いてきた 谷川俊太郎、詩と人生を語る』 ナナロク社 2800円+税 
 3年8回にわたる対談をまとめる。【帯】から。
 日本でもっとも有名で、もっとも知られていない詩人のすべて。
 半世紀以上にわたる創作の過程で、詩は、谷川俊太郎は、どう変遷してきたのか、名作誕生の裏側、三度の結婚と離婚、人生のあれこれ――
 もっとも信頼している編集者を相手に、詩と私生活(プライベート)について本人が余すことなく語りつくした谷川俊太郎詩論・決定版。
 未発表詩から「二十億光年の孤独」「なんでもおまんこ」「私」「トロムソコラージュ」まで、34冊の詩集から88篇を収録。

◇ブックフェア カレー本フェア レジカウンター
■ミーツリージョナル別冊『Love カレー 京阪神の150皿』 780円(税込)刊行記念 夏はカレー、でも年中カレー。 お買い上げプレゼントあり。

■永田収 編集・発行
『別冊・SANPO 下町通信 No.3 KOBE喫茶探偵団報告会 1』 500円(税込)
町に根づいた喫茶店を探訪・報告。おしゃれなカフェとかデートの場所ではありません。商店主、カメラマン、イラストレーターら5人の結社。「モーニング」の話やコーヒーチェーンの歴史やら、「音楽喫茶」「画廊喫茶」に「仏壇喫茶」など面白い話がいっぱい。

 コーヒー文化と神戸の関係では、やはり港町で外国人が居留し、コーヒー豆が入ってくることが大きい。貿易商、焙煎屋も多い。喫茶店は、急速に発展した町で労働者人口が増え、また家内制労働もあり、休憩・食事の役を担った。
余談です。1878年(明治11)元町通3丁目の茶商「放香堂」がコーヒーを販売し、コーヒー牛乳を考案している。また当店の第2代社長は昭和初期にコーヒー豆の輸入事業で、出版・販売経営を支えたとか。

◇海の本 
■橋本進
『咸臨丸、大海をゆく サンフランシスコ航海の真相』海文堂出版 1500円+税
著者は1928年生まれ、海洋研究家。元は運輸省航海訓練所教授で、「日本丸」など練習船の船長を歴任、東京商船大学教授。眼科医でもある。
勝麟太郎指揮のもと、咸臨丸が品川沖を出発したのは1860年正月。ペリー来航で初めて蒸気船を見たのが1853年、航海技術を学び始めたのが55年。わずかな年数で日本人が自らの力で太平洋を横断した、ことになっているが……。
同行した福澤諭吉はこの航海の成果について、短期間での技能習得と決断力、日本人による遠洋航海成功を誇っている。また1938年出版の『幕末軍艦咸臨丸』(文倉平治郎)も日本人のみによる快挙としている
1960年日米修好通商条約100年の記念事業で『万延元年遣米使節史料集成』(全7巻)が刊行された。咸臨丸関係資料も多く、乗組員の日記のほかアメリカ海軍ブルック大尉の日記も収録されている。彼と部下10名も同乗していた。
咸臨丸は浦賀沖で強烈な時化に遭い、その航海は荒天続きだった。日本人のほとんどが船酔いして、運航にはブルックらと日本人ではジョン万次郎と他2名しか従事できなかった。日本人仕官(武士)たちの日記には一切その記載がない。従者は正直に書いている。
日本人は10日以上ダウンしていた。また船内には火薬用の雷管の箱が放置され、転げまわっているし、料理室から失火している。水夫は火鉢と煙管を放さないし、仕官たちはドアを開けっぱなし、食器が床に転がっている。
 ブルックは勝に何度も注意をしている。彼によって仕官たちは「シーマンシップ」を再教育されることになる。
 この航海の目的は、遠洋航海の技能を経験すること。著者はこれこそが「シーマンシップ」という。航海技術+船乗りとしてのマナー。技術とは、海難を防ぎ、所期の地点に船を進め、また停泊するための技術。マナーとは、海上で働くあいだに身につけた知恵・作法。狭い場所を広く住みわけ、物を粗末にせず、すべての物がすぐに間に合うように整頓されている。眼は常に自然の変化から離れず、心は変化の機先を制して労を省きながら安全をはかる。「シーマンシップ」の欠如はそのまま船の運航不能に関わる。
 ブルックによる教育は日本人だけで無事日本に帰るためでもあった。サンフランシスコ到着後、咸臨丸は彼の尽力で徹底修理された。また仕官に復路の航海計画まで指導した。
 この時点では、勝海舟はわれわれが知る英傑ではなかったようだ。武士たちもプライドだけは高かった。

村上春樹関連
■『考える人』2010夏号(新潮社・1400円税込)の特集は「村上春樹ロングインタビュー」。
■『大澤真幸THINKING O』第4号(左右社・1000円+税)は「もうひとつの1Q84」。 
 大澤論文 〈虚構の時代〉における/を越える村上春樹
 対談 辻井喬×大澤 日本の虚構と『1Q84』の存在感
 大澤は社会学者の立場から春樹作品を読み解く。「戦後史、とりわけ戦後の精神史の後半に生じた――あるいはむしろ生じつつある――転換」を明らかにする。社会的レベルでも個人レベルでも理想の時代から虚構の時代への転換があった。その断絶の感覚を持った作家が村上春樹だったと仮説を立てる。理想の時代、虚構の時代とは?

◇今週のもっと奥まで〜 本欄初の“洋モノ”
■ベラ・アンドル
『再会は熱く切なく』早川書房イソラ文庫 800円+税
 著者は03年デビュー。07年本書「ロマンティック・タイムズ賞」ノミネート。
 若い頃の恋人と同窓会で再会、いわゆる“ラブ・アゲイン”。エマは親のすすめた結婚に破れ、元の恋人ジェィソンはいまや有名シェフ。彼女はもう一度ジェイソンとやり直し、うわべだけでない人生を願う。彼も暖かく迎えるが、自分を捨てたエマに復讐の思いがあった。でもうまくいくんですけどね。
 熱い再会は紙版で。
(平野)