週刊 奥の院

大逆事件

                                          
 週刊 奥の院 第59号 2010.6.11
◇100年
昨年は、太宰治松本清張中島敦大岡昇平埴谷雄高が「生誕100年」の年だった。
今年の「100年」は、「韓国併合」「『遠野物語』出版」、そして、「大逆事件、発覚・逮捕」。来年1月は「処刑100年」。

(1)田中伸尚『大逆事件 死と生の群像』 岩波書店 2700円+税
著者が10年を超える取材で、遺族・関係者の苦闘を書く。

(2)『彷書月刊 4月号 特集 大逆事件百年』 彷徨舎 700円+税
・インタビュー 山泉進さん(大逆事件の真実をあきらかにする会事務局長)に聞く
・森近運平(「大阪平民新聞」、死刑)のふるさと井原市からのたより
大逆事件/売文社(堺利彦)創立百年を迎えて
丸木位里・丸木優 作 「大逆事件
・事件関連略年譜 他

(3)幸徳秋水 遠藤利國訳・解説 『現代語訳 帝国主義』 未知谷 1800円+税 
1901(明治34)4月発行『廿世紀之怪物帝国主義』。秋水30歳。「萬朝報」で論説をしていた。序文は同僚の内村鑑三

事件については皆さんよくご存知でしょう。1910年、爆発物取締罰則違反から天皇暗殺計画=大逆罪で、24名に死刑判決(すぐに12名は恩赦で無期刑)、2名が懲役刑に処された。まさに国家による「でっちあげ事件」。
帝国主義的膨張に向かう国家にとって「主義者」は邪魔だった。
爆弾製造・実験したのは宮下1名、管野・新村・古河の3名が暗殺計画に乗っただけ。4人が揃って会ったこともない。そのうえ社会主義者アナキストというだけで関与していない人たちが逮捕・処刑された。
管野は超大物・秋水と内縁関係だったし、新村は秋水の「平民社」に出入りしていた、それは事実。秋水と繋がる社会主義者たちが和歌山、神戸、熊本で逮捕される。盟友・堺利彦大杉栄は08年の「赤旗事件」で獄中にあり免れた。
10年9月に出所した堺は、獄中の彼らに面会、手紙、差し入れと面倒を見、翌年1月の処刑後、遺体を引き取り荼毘に付した。3月から刑死者の遺族を慰問した。その費用は京都丹波の銀行家が負担したという。懲役刑でも5名が獄中で亡くなった。
現在、連座者のふるさとでは名誉回復運動が起こっている。
 以前も紹介した堺の句。  行く春を若葉の底に生きのこる
 大杉の句。  春三月縊り残され花に舞う
 啄木『ココアのひと匙』
 われは知る、テロリストの
 かなしき心を
 言葉とおこなひとを分かちがたき
 ただひとつの心を、
 奪はれたる言葉のかはりに
 おこなひをもて語らんとする心を、
 われとわがからだを敵に擲つくる心を
 しかして、そは真面目にして熱心なる人の常に
 有つかなしみなり

◇編集者の本
江弘毅 『ミーツへの道 「街的雑誌」の時代』 本の雑誌社 1600円+税
元・京阪神エルマガジン社ミーツ・リージョナル」編集長。2007年編集集団「140B」(いちよんまるびー)設立。大阪ディープサウス岸和田だんじり男。
「ミーツ」は京阪神の「おもろい人&話」をメインにして、従来のイベント情報だけの情報誌とは一線を画してきた。
創刊は1989年12月、世はバブル真っ盛り。私はちゃらちゃら浮かれた雑誌やろと思っていた。めくりもしなかった。創刊しばらくは売れなかった。パラパラ見るようになったのはだいぶ後。ひさうちセンセや内田先生の記事

をたまに読んだ。熱心な読者でなくてごめん。
これまでも著者はその雑誌づくりのスタイルを書いてきている。本書から。

・「人の絆」などというと、「何を古臭いこと」をといって笑われそうだ。
・(「ミーツ」は)すべてが会うべき人に出会って繋がりができ、何事もそこから始まったといえる。
・「人と会う」というのは、人格的な出会いがあるということである。大阪弁でいうところの「ええ人と会うたなあ」というアレである。
・街に出て、街で起こっていることやお店や人を取材し編集してきた。それは「人間に会う」ということと同様に、「街の泣き笑いみたいなもの」に差し向かうことでもあった。 


第5号の“ミナミ特集”から少しずつ雑誌のスタイルができたそうだ。消費するための情報やカタログではない、街の「うまい」「おもろい」「たまらん」を編集者が書いた。おしゃれな「フレンチ」や「イタリアン」でも、下町の「お好み焼き」や「串カツ」でも、それぞれの街で「近所づきあい」のようなコミュニケーションが成立していることをわかってもらえる雑誌づくり。いわゆる「ハナコ」的な雑誌に「お前らアホか」という態度をとれる雑誌づくりだ。
バブル崩壊阪神・淡路大震災をくぐり抜け「ミーツ」は伸びる。創刊から躍進を語るのだが、さまざまな事情で著者とスタッフたちはこの会社を去る。その事情は創刊の時からあったことなのだろう。著者はすべてを曝す。

 ◇今週のもっと奥まで〜
 ■有吉玉青 『カムフラージュ』 角川書店 1700円+税
 女子学生と恋に落ちる大学教授。その妻は画家でモデルの男と関係。女子学生の彼氏は別の女子と浮気。女子学生は教授の息子の家庭教師になる。彼氏は偶然であったモデルの男と関係。息子は同級生と妊娠騒動(セーフ)。その同級生の姉は彼氏の浮気相手。なんやかんやで教授は失業。狭い人間関係の中である日突然調和が崩れる。
 紙版引用シーンは当欄初の男と男の場面。
 ■中川越 『文豪たちの手紙の奥義』 新潮文庫 438円+税
 当然ラブレターから。文豪たちは私生活でもその筆力と想像力で精一杯の愛情表現をしている。
 谷崎46歳、16年連れそった妻と別れ、若い編集者と結婚したばかりの時。相手は大阪の豪商の妻、のちに結婚する松子。
 「一生あなた様に御仕え申すことが出来ましたら たといそのために身を亡ぼしてもそれが私には無上の幸福でございます」
 茂吉54歳、恋人ふさ子26歳、道ならぬ恋。
 「写真を出して、目に吸いこむように見ています。(略)この中には乳ぶさ、それからその下の方にもその下の方にも、すきとおって見えます、ああそれなのにそれなのにネエです。食いつきたい!」
 「ふさ子さん! ふさ子さんはなぜこんなにいい女体なのですか。何ともいえない、いい女体なのですか」
 (平野)