週刊 奥の院 第51号

 週刊 奥の院 第51号 2010.4.16
◇雑記
■「かいぶんどうのえろほんふぇあ」に「ちんき堂」さんが提供してくれたポスターをご披露。
 私の年代以上の人でないと覚えていないでしょう。「応蘭芳」――おうらんふぁん。私、「いんらんふぁん」と言うてました。「マグマ大使」のおかあさん役でしたが、変身。
■「ロードス書房」古書目録「ロードス通信」第26号入荷、100円。表4の「新刊案内」がいつも面白いです。今号では『証言連合赤軍』1〜7号(連合赤軍事件の全体像を残す会)を紹介しています。注文はロードスさんに。
■『ほんまに』第11号、延びに延びていましたが、何とか20日には発売? 原稿遅延に、ついにセーラ編集長最後の手段。赤ヘルを編集室に呼び出し、監禁して書かせた由。ああ、わても監禁されたい、しばかれたい。
■「監禁」解けるや呑み会。身内だけかと思っていたら、他書店若手も参加。そこに神戸新聞組が乱入。神戸文学界の大御所・島京子さんまで「赤松酒店」にお連れしていた。突如の大宴会。
◇イベント
■第7回海文堂の古本市 4/28(火)〜5/10(月) 2Fギャラリースペース 
参加書店 やまだ書店、イマヨシ書店、あさかぜ書店、一栄堂書店、オールドブックス ダ・ヴィンチ 
会場内にて、『彷書月刊』バックナンバーを販売します。また、1F特設ワゴンでは、「店長蔵書放出 100円均一フェア」を5/1より開催。「身辺整理」ですので、彼の安らかな旅立ちのために皆さんのご協力をお願いします。 
◇人文社会
■郄橋隆博編『新発見 豊臣期大坂図屏風』清文堂 1900円+税
関西大学教授、同大学なにわ大阪文化遺産学研究センター長。
 2006年9月、関大にドイツ・ケルズ大学フランチェスカ・エームケ教授が招かれ、彼がオーストリアグラーツ市エッゲンベルク城博物館にある169.3cm×472cmの屏風の写真を見せてくれる。郄橋教授は、天守閣や城下の風景からまぎれもなく豊臣時代の大坂と直感する。
 350年間保管されていた。博物館が調査にかかったのは1990年から。2000年から04年修復された。日本にある「大坂城屏風」に描かれていない、住吉祭の行列や、淀川と舟、町のにぎわいなどが活写されている。
この屏風がどのような経緯で海を渡ったのか? 豪華な屏風は中国・韓国への外交上の贈り物に使われた。また長崎から東インド会社を通じてアジアの王族に渡った。ヨーロッパ向けでは、1642年に長崎のオランダ商館長が東インド会社総督に依頼を受けて、44年にオランダに送った記録がある。もし東インド会社経由なら、この時の可能性が高いようだ。
それにしても、よく大切に保管されていたもの。
■当店でトーク会をしてくださったお二方が同時に河出ブックスで新刊を。
(その1)海野弘『秘密結社の時代 鞍馬天狗で読み解く百年』 1300円+税
 大佛次郎の小説には秘密結社が現れると。なかでも『鞍馬天狗』は「幕末の結社の物語として読むことができる」。
 秘密結社のイメージは、陰謀や犯罪、世界制覇を思い浮かべる。「悪」、それを「正義」の天狗が倒すという筋立てだが、それだけではない。大佛が作り出した話は、「悪の権化に立ち向かう鞍馬天狗もまた覆面をした秘密結社」。彼は秘密結社を単なる悪や敵にするのではない。「ひそかにあこがれ、共感し、待望し、鞍馬天狗を誕生させた」。
 幕末動乱の時代に登場した数々のグループ――新撰組奇兵隊天誅組天狗党海援隊などなど、それらが離合集散し、暗闘する。
天狗は何者か? 大佛は義経伝説を主題にした謡曲鞍馬天狗」から思いついた。牛若丸が天狗に学び平家を倒す用意をする。平家は幕府に重なり、勤皇志士を天狗が助ける。天狗は山の妖怪で修験道と結び付けられ、また天皇につながる。山の異形の人が新しい時代の変化を告げる。
「〈秘密結社〉というキーワードで鞍馬天狗を読んでいくと、大佛が幕末を舞台にしながら、同時代の事件を埋めこみ、戦争へ傾斜していく一九三〇年代を書こうとしていることがわかってくる。同時代を直接書くことは困難であったから、幕末の覆面の武士によって語ろうとした」。そして晩年の作品『天皇の世紀』『パリ燃ゆ』にいたる。
(その2)細見和之『〔人と思考の軌跡〕永山則夫 ある表現者の使命』1200円+税
 1968年、永山は19歳で4人を射殺。北海道網走生まれ、貧困、父失踪、姉精神病、母出奔、のち引き取られるが家出を繰り返す。集団就職で上京。外国船で密航を試みること2度。自殺未遂。職場転々。窃盗未遂で逮捕。定時制高校2度中退。自衛隊志願するも不可。68年10月、横須賀米軍基地に侵入、ピストルを盗む。約1ヵ月の間に東京、京都、函館、名古屋で連続射殺事件。69年4月東京で現行犯逮捕。当時新宿のジャズ喫茶でアルバイト。マスコミは「連続射殺魔」「ピストル魔」と取り上げ、貧しい生い立ちから犯行まで事細かに報道した。知識人・文化人が関心を寄せる。寺山修司は永山の孤独な心情に共感。新藤兼人は映画にした。「貧しさに視線を向けなければ、連続射殺魔の正体は描けない」。
 永山は獄中で猛勉強、文字を学び、ノートを書き、膨大な本を読む。新左翼学生から資本主義批判を吸収。「自分の犯した決定的誤ちは、本来この資本主義社会のなかで連帯すべき仲間を殺してしまったこと」と気づく。
 71年3月手記『無知の涙』刊行、ベストセラーになる。私の死んだ婆さんは、お経しか読まなかったが、この本は読んでいた。
 さらに多くの文化人が彼について書くが、永山は彼らを「ハイエナ文化人」と罵倒、弁護人も次々解任する。79年地裁死刑判決、80年獄中結婚、81年高裁無期判決、83年小説『木橋』が新日本文学賞、90年最高裁死刑確定、97年死刑執行。
 細見さんは、彼の最後の作品『華』から時代を遡って永山の「表現」と向き合う。永山は獄中のートから出発して膨大な文字を書きつらねた。「自分のような犯人をふたたび生じさせないため」だった。彼の表現は「凶悪犯は迅速に処刑すればよい、というような風潮に、最低限の楔を打ち込むことを要請しているのではないか」と。
■塩崎賢明、西川榮一、出口俊一、兵庫県震災復興研究センター編『大震災15年と復興の備え』クリエイツかもがわ 1200円+税
 本書のねらい。(1)15年を経過した阪神・淡路大震災の復興過程から何を学ぶか。
(2)それを踏まえて今後の大災害の復興にどう立ち向かうのか。
 「減災」を達成するには、事前の予防、直後の緊急対応が重要だが、この15年間で災害後の復興過程においても甚大な被害が発生することが明らかになった。「復興災害」だ。アスベスト被害、震災障害者など。復興事業費用の検証も。
◇今週のもっと奥まで〜
井上荒野『もう二度と食べたくないあまいもの』祥伝社 1429円+税
 恋の終わりを描いた短編集。紙版引用は「裸婦」。年に1度避暑地のペンションで、離婚した夫の母・姉妹と会う。ことしは若い恋人を連れて。食事の時、夫の話が出て、恋人は嫉妬。
(平野)