週刊 奥の院 第47号 

里海

週刊奥の院 第47号 2010.3.19.
◇今号唯一の普通の本
■印南敏秀 『里海の生活誌 文化資源としての藻と松』みずのわ出版 2800円+税 
 1952年新居浜市の海辺の生まれ、現在は豊橋市三河湾岸に住む。愛知大学教授、海里山文化、食文化、入浴文化研究。本書のフィールドは瀬戸内海と三河湾。どちらも遠浅の続く内海で、生態条件が似ていて、生物の種類も多かった。沿岸部に松林が発達していたことも共通。松を育成し、管理しながら燃料・用材・肥料に利用し、防風・防砂林とした。人が手をかけて手入れし、沿岸の松は文化的景観ともなった。
 「里山」と同じく「里海」がある。魚介類の産卵と育成の場として藻場が注目される。埋め立てや汚染で喪われた藻場が再生されている。食用の藻だけが重要ではなく、雑草のような藻が大事な「藻場」となる。藻の減少は内海だけでなく、外海の漁獲にも影響が出る。藻は肥料としても利用される。
 内海各地の生活文化の多様性も紹介。
◇私は、決して「H本」ばかりを紹介するつもりではないのだけれど、集まってくる。このところ「洋物」が多かったのに、今回すべて日本製で。
■岡村青『「絶倫」で読む日本史』現代書館 2200円+税
 男女の性から日本史を書く。「かつて子孫繁栄は強固な権力基盤を築くうえで欠かせない必須条件であった」。
 家名の安泰と血族の結束……、どっかの「男系・女系」論争を思い浮かべる。
 第一章 絶倫は神代からはじまる 神武、景行、仁徳……。
 第二章 “性”の源平盛衰記 清盛、頼朝、後醍醐……。
 第三章 武将はさすが絶倫なり 信玄、信長、秀吉……。
 第四章 政略と絶倫の徳川三百年 家康、秀忠から慶喜まで。
 第五章 近代国家なれど絶倫は途絶えず 海舟、松方正義、蘆花……。
イザナミ・イザナキの性から日本は始まる。
「この世に存在するあらゆるものが夫婦神のセックスによって誕生した、というところがいかにも日本的でじつにいい」
「全知全能の神が天地を創造し、世界のすべてをつくりたもうたなどと、傲慢なことはいわない。この点が、日本と西洋とちがう」
イザナキの子は65人、信長の子は30人以上、家康は19人。後継者存続だけが目的ではない。「不倫の、あまく、ねっとりとしたエッチでむすばれたものもいる」。
性は、長寿・健康維持、回春の妙薬であることも。
天野祐吉嘘八百 明治大正昭和変態広告大全』ちくま文庫 800円+税
 正しい「嘘広告」(?)から「先人の知恵と技術を学びとろう」。
 嘘広告とは、悪質・インチキではなく、「想像力を切りひらき、人間ってバカだなァ、面白いなァ、と実感させる」もの。「すぐれた広告は、すべて嘘」。
 薬の広告。病気という弱みにつけこみ、広告は「そのワザを磨いてきた」。買うほうも、広告を丸ごと信じるほどバカではない、だまされることを望んでいることもある。にきび用化粧水、目薬、胃腸薬、頭のよくなる薬、毛はえ薬など、絵と文の見事な嘘。
 変態モノ。精力剤に性病予防薬、避妊具など。「回春飴」「回春目薬」「愛妻の心尽くし 朝と夕のトツカンピン」「弱いお方にスッポン飴」「絶対破れぬ 男女サック」などなど。
 ■永田守弘『教養としての官能小説案内』ちくま新書 740円+税
 続いても「筑摩」。ふだんなら、これ1冊で十分なのに。著者はその道の研究家で、日々官能小説を読み、メディアで紹介する。
「女性器に男性器を挿入」という文章では、今時誰も興奮しない。作家たちは、現代人の「贅沢で多様な欲望に応えるため、ストーリー設定や主要キャラクターの造型、あるいは性交・性器描写の技法、さらにはタイトル付けなど、ありとあらゆる側面で、その表現を深化させてきた」 
 カストリ雑誌、SM御三家、川上宗薫、富島健夫、宇能鴻一郎、女流作家、文庫シリーズ、癒し系……、歴史をたどりながら官能小説世界を案内。
「今週のもっと奥まで〜」は本書から懐かしい「川上宗薫」作品を引用。紙版で。
 ■『I♡秘宝館』八画出版部 2400円+税 09.6月刊。
 今週の一押し。何せJ堂S店(三宮でも仙台でもない)の春ちゃん大推薦。日本中の「秘宝館」「性地」50。これも、ふだんならこれだけで字数が尽きる本。
 春ちゃんのおことば。
「……マイナーな出版社ですが、秘宝館に全精力を傾けている真摯な取り組みには、頭が下がります。内容は×××の弱い路線で、とても素敵な出来栄えです」
 さて本書出版のきっかけは、07年の「伊勢国際秘宝館」の閉館。前年には東北の「男女の館秘宝館」が閉館。北海道他全国で閉館の危機が迫っている。秘宝館は娯楽施設であると同時に、日本古来の「性の神・祭」を受け継ぐもの。信仰も芸術性もないかもしれない。後世に語り継ぐべきものでもないだろう。それでも、だからこそ貴重な「見世物」である。
 秘宝館にくわしい都築響一さんが語る潰れる理由。
「秘宝館って、今、面白がられてはいますけど、すごくバカにされてきた存在ってことですよ、結局は。地元からはすごく嫌がられてきた存在だっていうことを忘れちゃならない」
 都築さんは、「鳥羽SF未来館」閉館後、展示物の一部を買い取った。
 潰れた秘宝館の残骸・廃墟風景は悲しい。
(平野)