kaibundo2010-03-14

■『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』  杉村顕道著/荒蝦夷  1800円+税
東北の怪談作家、杉村顕道による怪談短編集。
怪談といえば、とにかく怖がらそうという意図の下に書かれているはずで、何やらホラー映画のスプラッターなワンシーンなど思い浮かべていたのですが、全然違っていました。かといって四谷怪談や番町皿屋敷のようなおどろおどろしさも無く、短編のせいか言わば遠野物語のような味わい。それを落語家の語り口で聞かせてくれる、目で読みつつ耳にも心地良いお話です。親が死に際に子に会いに来たり、不慮の死で魂だけが残ったり、龍神や古狐、恨みを残して死んだ後のあだ討ち話など、怪談と言うよりは奇談と言う方がピッタリくるかも。今でこそ聞かなくなったけど、昔はこんなことほんとにあったよねと、何か懐かしく、ほのぼのとした気分になる小説でした。
著者は明治37年生まれで、主に東北周辺で漢文教師を勤めながら怪談ものや伝承もの、ユーモア小説などを発表し、後には仙台で精神病院を設立するなど、教育や社会問題にも強い関心を持っていた人のようです。多彩な趣味のうち、落語にも造詣が深く、自ら演じることも多かったとか。
かつて『現代怪奇小説集』(立風書房)に収録された後、手に入らなくなっていた「ウールの単衣を着た男」も収録。幻の名作が甦りました。
出版社は荒蝦夷(あらえみし)。仙台を拠点に、『東北学』始めみちのく関係の書籍を多く出している出版社ですが、取次を通していないのでなかなか手に入りにくい版元さんでもあります。超大型3書店チェーンを除くと、西日本では海文堂を始め3店しか扱っていない模様。ぜひ当店でお手にとってご覧ください。
(熊木)