週刊 奥の院 第45号 2010.3.5.

ディケンズ

週刊奥の院 第45号 2010.3.5.
◇3月のブックフェア 主なものはHPを。
■春の行楽書 神戸新聞総合出版センター レジカウンター
山歩き、町歩き、歴史散歩に文学散歩、古寺めぐりなど。
■本でしか得られないもの NR出版会 レジ前平台
◇人文社会
ロンドンの本 ■マイケル・パターソン『図説ディケンズのロンドン案内』原書房 3200円+税 
 『クリスマス・キャロル』『二都物語』などで知られるイギリスの大文豪(1812〜1870)。
 あくまで私個人のイメージ、19世紀イギリスは何か暗い雰囲気を覚える。産業革命、世界一の大都市の華やかさより、人口増大による下層民流入、スラム、不衛生、かわいそうな孤児たちの物語……を思い浮かべてしまう。
 しかし、それだけではない。ディケンズの作品や、ジャーナリスト、ドイツ人旅行者、上流家庭の召使いらが残した文章をもとに、当時のロンドンを再現する。
第一章 街の風景 
第二章 ロンドンの人々  ぶらぶら歩き、変わりゆく街
第三章 買い物事情  階級区分、ロンドン子の言葉
第四章 ロンドンの勤め人たち  店開き、高級店、バザールの世界、百貨店他
第五章 交通事情  旅行体験、鉄道の到来、ロンドンのオムニバス
第六章 娯楽  広告の楽しみ、パノラマ絵画、家族の外出、大劇場他
第七章 貧困層  見習いと奉公人、肉体労働者と行商人、その日暮らし、救貧院の世界
第八章 罪と罰  警官隊、刑務所暮らし、恐ろしい監獄船
第九章 「お上品な」人々  公園、学校と学校教育、独身生活、求愛と結婚、家庭生活、教会通い
図版、地名ガイド、索引つき。

神戸の本 ■田辺眞人編『神戸人物史  モニュメントウォークのすすめ』神戸新聞総合出版センター 1000円+税
 園田女子大名誉教授、当店でトークをしてくださった。
歴女」とか、著名人の墓参りをする「ハカマイラー」とか。本書を参考になさってくだされ。身近な歴史モニュメントを紹介。ただ、私有地にあるもの、お墓や信仰の対象になっているものがあるので、探訪・拝観には、くれぐれもマナーを守ってください。
 さて、当店近辺では。
「J・W・ハートの居留地記念碑」(大丸西側歩道)
 ハートはイギリスの土木技師。開港時に来日して、居留地計画策定・監督を務めた。
「網屋吉兵衛の顕彰碑」(第一突堤
 吉兵衛は二つ茶屋村(元町通4丁目)生まれ。呉服・雑貨商で財をなし、隠居後(1854年)に幕府の許可を得て、船たて場(修理場)を建設。そこに海軍操練所ができる。
メリケンシアター」(メリケンパーク)
 1896年日本初の映画が花隈で上映された。また、チャップリンが来神・上陸したのはメリケン波止場。スクリーンに見立てた石碑の前に42の石が並ぶ。淀川長治が選んだ有名俳優の名が刻まれている。
 変わったものでは、「モーツアルト」「プレスリー」。長田に行けば「鉄人28号」。
◇雑誌 
■別冊太陽『泉鏡花 美と幻影の魔術師』平凡社 2300円+税
 蜂飼耳、小池昌代須永朝彦横尾忠則中上紀他、「鏡花」愛好家が作品を解説。
 先日亡くなった立松和平が「縷紅新草」について書く。この作品は1939(昭和14)年7月発表した鏡花の最後の小説(9/7死去)。
「異界を探ってこの世の人ではない母を求める鏡花の気持ちが色濃く出ている」 
 日本は戦争の真っ最中。
「世間はどこもかしこも武張った風潮」「繊細さや恥を敵視する粗雑な世に背を向け、永遠なる母に会いに旅立っていった」
 悲しい(恥ずかしい)ことに、私、100年前の日本語小説を読解するのが、たいへん。本書の後、作品に挑めば理解が深まるでありましょうか?
 編集者が書く。
「急いではいけない。手っ取り早く理解しようとしてもいけない。そこに何を読もうとするのか、何を味わおうとするのか。日本の近代文学を読もうとする人にとっては、泉鏡花は避けて通れない作家であるが、その魅力に取りつかれるまでには、結構時間がかかる。ただ、決して『失われはしないもの』と確信する。こんな時代だから、いま、鏡花の作品を読みかえしてみよう。ゆっくりと、じっくりと、何度でも」(湯原公浩)
◇今週のもっと奥まで〜
桐野夏生『ナニカアル』新潮社 1700円+税
 戦前・戦後の女流人気作家・林芙美子の恋。従軍作家時代の秘められた恋を炙り出す。
 相手は新聞記者K、出会いは昭和12年。芙美子33歳、K26歳。学芸部の慰労会に作家たちが招待される。宴会で男たちはバカ騒ぎ。芙美子は会場を抜け出す。Kは不愉快に「この世界に失望した」と。芙美子は「招待したのは新聞社で、作家は宴会を盛り上げている」と怒る。言い争うふたり。いきなりKが芙美子を抱きしめる。
残念、あの場面は紙版にてたっぷりと。
(平野)