■『スロープ』  平田俊子著/講談社 1680円+税
隠岐に流され帰れなかった後鳥羽院。夫に追い出され東京に流された私。「神通」に乗船して撃沈された伯父。シベリアに抑留され病死した隠岐出身の俳人。江戸時代に見世物にされ飽きられて飢えて死んだ象。
それぞれのエピソードが独立することなく重なり合い、過去と現在も、あったことと無かったことも区別無くパラレルで描かれる。
ストーリーというものは特になく、主人公が伯父の戦死した島に供養に行く旅が中心になってはいるけれど、そういう出来事よりは「わたし」のたゆたう心象風景がテーマといえる小説です。あるのは生きることのもの哀しさであり、死者への悼みなのだけれど、暗さは無くどこかとぼけた筆致でもあります。
萩原朔太郎賞などの受賞歴のある著者は、詩人であると同時に最近は小説にも力を入れている様子。詩人の書いた小説というイメージ通りの、経験を積んだ大人に味わっていただきたい小説です。
(熊木)