第40号 2010.1.29.

週刊 奥の院 第40号 2010.1.29.
◇人文社会                                  
■レイチェル・P・メインズ『ヴァイブレーターの文化史 セクシャリティ・西洋医学理学療法』 論創社 3200円+税
原題どおりに訳すと『オルガズムのテクノロジー:「ヒステリー」、ヴァイブレーター、そして女の性的満足』となるそうだ。
ヴァイブ、まず“家庭用マッサージ器”と思っていてください。用途は皆さんご想像のとおりですが、あくまでマッサージのための道具と。
著者は1950年生まれ、コーネル大学で科学技術史研究。古典史学、図書館学、服飾史、社会学経営学、安全保障と多岐にわたって学位を持つ。本書のきっかけは「針仕事」の技術史研究から。19世紀末から20世紀初めの婦人雑誌で「針仕事」の移り変わりを追うと、化粧品・石けん・レース編み・家具などの広告とともに「マッサージ器」も。使用法の写真・イラスト入りで美容やその他の効能を説明。また、医師用の医療器械のカタログでは、性的衰弱への効き目を宣伝している。
西欧医学の歴史では、「ヒステリア」=「子宮性病的興奮状態」=「女性の性欲をめぐる愁訴」で、女性にありふれた慢性疾患と考えられてきた。治療法は医師や産婆によるマッサージ。著者は「医療マッサージのテクノロジーの歴史」を、男性中心主義の性欲、女性の性欲の理想像とその捏造過程、治療法の正当化、などから検討していく。
広告で「治療器具」と称しても人々は何のための道具であるかを知った。1920年代には「家族全員に」を売りものにしたが、しだいに消える。60年代、おおっぴらに「性玩具」として再登場する。 
◇雑誌から
■『芸術新潮』2月号 新潮社1400円(税込)
特集「小村雪岱を知っていますか?」 雪岱は東京美術学校日本画を学ぶ。1914(大正3)年、泉鏡花日本橋』の装幀でデビュー。「雪岱」の号は鏡花による。22年里見紝の指名で挿絵。24年から舞台美術や映画美術で活躍。資生堂で商品や広告デザインも。日本美人の色香をたっぷり楽しんでください。
◇今週のもっと奥まで〜 「小説現代」2月号(官能小説特集 女が描く男)より
■斎木真琴『桜酔い』 
「目を覚ますと、隣に女が寝ていた……」
タカシはバイト先の花見で、孤立している女子社員と話し込む。彼女は社の方針(サービス残業)に従わない。強い信念があった。一夜を共にするが、早朝逃げるように帰る。
ヴァシィ章絵『グラニースミス』
表題はオーストラリア産の青いリンゴ。ひとみの服の色。ひとみと圭吾はかつて演劇仲間、いまはバイト先の上司の妻。その上司が困った性癖。ふたりに浮気を勧める。
◇雑記(1) めっきり「老人力」、周囲の労わりに感謝の毎日。先日もひとり作業場で検品しておりましたら、女性スタッフが「大丈夫ですか? ものすごーしんどそうですよ」と。ありがたいことです。私はやる気満々なのですが、他人が見ると無気力・脱力・倦怠感が滲み出ていたのでしょう。私、仕事大好きです。
(2)前号紹介の「呑み会」参加のYちゃんに、「次回のネタ見つけてあるネン」と言うと、「ヴァイブレーターでしょ?」と。わての志向は読まれている。懲りずに「2月の新刊でもオモロイ本見つけてん」。
(3)同じく「呑み会」参加のK新聞Hデスク担当の本紹介欄、次回の「お題」は何と「もっと奥まで」。おふざけはいかん。真面目な私は、「作家や物事を深く知る」をテーマにします。それでも「好きに書いてよし」とのおことば。きっと何があっても「平野のことは私が守る」と言う意思表示と受け止め……、締め切り来週やのに、もうできてもた。
(4)「恥の上塗り、厚化粧」です。あの「ダイエット本」がついにベスト1位になってしもうた(1/27集計)。エラソーにインディー・個性派を気取ったが、そこいらの大型店並みになってしもうた。それでもまだ負け惜しみ。「もう続かん、本が底ついたはず」。野球評論家の順位予想みたい。
(平野)