■『美しき天然 嘉仁皇太子の修学旅行』 田中 聡著/バジリコ 1800円+税
嘉仁皇太子と言われてもどなたのことかピンと来ませんよね。遠い昔の方かしらんと思ったら、若き日の大正天皇のことでした。え、大正天皇って即位して15年で亡くなられたあの病弱な… 
近年、大正天皇を再評価する伝記本が出版されたりして、昔から聞いてきたイメージとはどうも違うらしいと気付いてはいるのですが、いずれにしてもしっかりした像を結びにくい方ではあります。
それがこの小説では、22歳の皇太子が各地を見て回り(お供を大勢引き連れた巡啓だけど)、先々で生き生きと質問し考え日本の将来に思いを馳せるのです。明治35年5月から6月にかけて行った嘉仁皇太子の修学旅行という史実を正確に再現(到着時刻や視察した所休憩した所通った道に至るまで)し、読者も殿下と一緒に旅行している気分に。
しかしその巡啓で直訴しようとする者、妨害しようとする者、妨害を阻止しようとする者等、架空の小さき山の民スクナ衆と実在の記者や文士が絡まってスリリングに展開して行きます。
著者は1962年生まれ。『妖怪と怨霊の日本史」など、膨大な資料を読み込んで作品化するのが得意の方のよう。本書は始めての小説。大いに期待したい新人です。
(熊木)