kaibundo2009-12-11

■『すき・やき』   楊逸(ヤンイー)著/新潮社 1300円+税
日本人と結婚した姉を頼りに来日し、高級すき焼き店でアルバイトに精を出しながら学生生活を送る中国人の虹智。弥生人顔の店長にときめいたり韓国人留学生に好かれたりと、若い人の淡々とした日常を丁寧に描いた心優しい小説です。「いらっしゃいませ」が言えず「いらーしゃいまーせ」となってしまうのが、「いらっ」と詰まる部分に小さな挫折(!)を感じることで言えるようになって行く。日本を体験する主人公のとまどいが新鮮で、その発見に共感してしまいます。
著者は初めての外国人芥川賞作家で、日本では数少ない、他言語の母語を持ちながら日本語で小説を書く作家である楊逸(ヤンイー)さん。欧米の多くの越境文学者とは違って、彼女は政治や民族に基づく移民ではありません。主人公も平和の中での留学という幸福な越境者で、ここには中国の人たちの日本人への(あるいは逆の)複雑な感情が、まったく登場しないのです。そういったもの抜きの日中間小説っていうのもありなんですね。主人公の周辺の日本人がみんなやさしい人でよかったねと、思わず声をかけたくなっていまいました。
(熊木)