kaibundo2009-11-13

■『猫の水につかるカエル』  川崎徹著/講談社 1600円+税

「じゃ、また明日」いつものようにわたしは、二匹に声をかけた。が、二匹が明日も生きていて、再び会える保証はなかった。「じゃ、また明日」と口にするたびに、わたしはそう思うのだった。

著者はCM制作でおなじみの、あの川崎徹さんです。一時期よくテレビに出ておられましたよね。時代の先端を行くお仕事なのに、なんだか内気で繊細な人、という印象だったのですが、この本には、まさしくそんな著者らしき人物を主人公にした静謐な2編が収録されています。
「傘と長靴」「猫の水につかるカエル」 前者は、雨が降れば父を迎えに行った子供の頃の記憶。後者は、「わたし」が人間ドックで腫瘍を発見されて再検査となり、経験者の友人と飲みに行く話。共通するのは死の影、というよりは死への思いに満ちていること。父の、母の、友の、猫たちの、更には自分自身の「虫喰いの」記憶を身近に置いて静かに内省する主人公。猫とのやりとりや父や友人との会話にくすりとさせるやさしいおかしみもあって、この人の本をもっと読みたくなりました。
時代に並走することだけが価値であるかのような仕事をしてきた著者にとって、小説を書くことが自分を取り戻す行為であったのかも、という気がします。
(熊木)