kaibundo2009-08-14

■『女中譚』       中島京子著/朝日新聞社 1400円+税
出ました!久々の換骨奪胎小説。中島京子の小説の中で一ジャンルを形成する(といってもまだ3作目)のが、この換骨奪胎小説(または本歌取り小説とも)です。「FUTON」は田山花袋の「蒲団」を、「イトウの恋」はイザベラ・バード「日本奥地紀行」を基にして、なんとも面白いお話に仕上がっていましたね。
本書は、林芙美子吉屋信子永井荷風の3人が書いた〈女中〉をテーマにした別々の小説を、一人の女の大正から昭和の始めにかけての遍歴にしてしまうというのがすごい。前2作同様、その三つの遍歴が、80年も前の〈本歌〉の作家をいかにも髣髴とさせる内容で、元はどんなだったんだろうと興味をかきたてます。
女をだまして金を用立てさせることしか考えない男の片棒を担いでしまう第一話。ドイツ帰りのわがままお嬢様に仕え、戒厳令の妖しい一夜を迎える第二話。長い顔にロイド眼鏡の作家先生宅で女中をしながらダンスを習う第3話。ラストの荷風先生の述懐が心に沁みます。

(熊木)