神戸の本 『本居宣長の大東亜戦争』&『バラード神戸』

本居宣長

 ■『本居宣長大東亜戦争』 田中康二/ぺりかん社 4800円+税
 著者は1965年生まれ、神戸大学大学院で博士号、野口武彦ゼミ出身。現在、同大学院准教授。
 戦時中、「本居宣長」は国粋思想の代表者としてもてはやされ、戦後の研究に暗い影を落とされている。戦時中の誤解を解き、曲解を排すると同時に、誤解のされ方や曲解の手口を明らかにする。
 たとえば、有名な宣長の歌「敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花」は、宣長が61歳の自画像に添えたもの。大和心は上代人の汚れない「真情(まごころ)」で、その象徴として山桜を詠んだ。宣長没後も広く愛唱され、本歌取りして詠まれたほど。しかし、幕末の動乱時代になると、武士道精神と結びついた潔く散る桜のイメージで「死」を美化し、大和心=日本精神=非常時の切実な要求というものに変質する。戦争に突入した時代には、「国民皆兵」「銃後」など教育現場で利用され、最前線では「特攻隊」を編成する。
 戦後、桜と死のイメージは薄れたようだが、「日本精神」ということばは忘れ去られ、訂正される機会を失ったまま。
 「敷島歌はいまだ大東亜戦争の闇から抜け出していない」
 
 ■『バラード神戸』 田中良平/ドメス出版 1900円+税
 愛の歌にのせた短編小説6編。メリケン波止場、御影の個人美術館、トアロードのバー、センター街の喫茶店、オリエンタルホテルを舞台に切ない恋の物語が奏でられる。
 (平野)