kaibundo2009-05-19

 ■『ソクラテスの弁明 関西弁訳』 北口裕康訳 / PARCO出版 1200円+税
 「哲学ちゅうのは『なぜ生きるんか』とか『善とはどいうことなんか』とか、人間なら誰でもぶち当たる疑問に答えてゆく学問ですよね? 近所のおばちゃんおっちゃんにもわかるように話をすることができて、納得してもらえる。それがほんまの哲学っちゅうもんやないでしょうか」
 わてもそのとおりやと思います。
 裕やんは、ソクラテスの思考を変えんと人間っぽく、俗物っぽく表現するんには関西弁がええ、と、まあ、いらんこと考えた訳や。関西弁いうたかて、京都と大阪と神戸で、ちゃいます。大阪だけでも、摂津と河内と和泉、みなちゃうし、それぞれに北や南があります。ほんで、裕やんが思たんは、米朝さんの「船場ことば」がしっくりくるんやないかと。
 で、ソクラテスだ。まず、歴史的背景から説明しはります。ギリシア都市国家アテナイの事情、直接民主制、弁論術、民主派と反民主派、恐怖政治と反乱、戦争など。そのあと、ソクラテスの弁論に入るわけだ。
 ソクラテスの罪ちゅうんは、「国家の認める神を認めず、怪しげな鬼神を祭り、それによって青年たちに害悪を及ぼしている」というもん。
 弁明の出だし。
 「アテナイ人のみなさん、わたしを訴えてる連中の話を、みなさんがどういうふうに受け取りはったんかわかれしまへんが、わたしは、上手に言うなあ……、と我を忘れて聞いとりました……」
 落語本を読む感じで読んどくんなはれ。訳者はミナミの料亭のボンで、システムデザイナーやそうです。
 

 ■『拉致 左右の垣根を超えた闘いへ』 蓮池透 / かもがわ出版 1000円+税
 著者は現在、家族会から離れている。出席を求められることもない。
 なぜ?
 運動方針の食い違い、違和感……。
 日朝交渉の行き詰まりの背景に北朝鮮打倒を目的とする人たちの影響があるのなら問題解決の展望はない、という立場だ。
 「右翼的な人たちから『あいつは変質した』『裏切り者』とバッシングを受けています。私は右でも左でもないのです」
 被害者の救出を第一と、「右も左も、垣根を超えて、被害者のために連帯しあえる運動」を望んでいる。
 

 ■『歳月の鉛』 四方田犬彦 / 工作舎 2400円+税
 明治学院大学教授。映画、文学、都市論、アジア論など幅広く評論活動。
 著者が1971〜78年にかけて記したノオト26冊、大学浪人時代から修士論文にとりかかるまで。読み返して1970年代という時代を考える。ノオトの内容は「読んだ書物のメモと感想。気になった部分の引用。観たフィルムの印象。放棄した詩の断片。それに感情と思考の記録……」。
 著者の70年代は、連合赤軍事件に始まり、円の変動相場制、日本列島改造論オイルショック、諸物価高騰、それに新左翼セクト同士の殺人……、「暗い過渡期であった」。
 世界的にみると、中国は文化革命終結アメリカはヴェトナム撤退。
 ドイツとイタリアでは学生運動から爆弾と誘拐によるテロ。日本を加えると「みごとに40年前の枢軸国の構図」が浮かび上がる。
 「破壊の季節が終わると、鉛のように重く意気消沈した歳月が襲いかかるという点で、いずれの社会にも共通したところがあった。長い服喪の期間だった」
 内ゲバで友人が死に、勉強に明け暮れた時期。映画館以外は部屋に閉じこもっていた。外に飛び出すのは、70年代末、修士論文とともに映画批評を書き始め、79年韓国へ日本語教師として赴任してから。

 
 ■雑記…豚インフルエンザ騒ぎで神戸の街はシーーーン。以前紹介した『神戸を読む』によると、さまざまなイメージが神戸にはある―「幻想都市」「災害都市」「皇国都市」「両面都市」「混迷都市」など。「土建都市」とか「株式会社」というのもあるだろう。2009年、新たに「インフルエンザ都市」もしくは「伝染都市」が加わるのか?
 店頭でのマスクについて、海文堂は個人個人の判断でマスクの装着は自由。私はしていない。デパートの食品売り場並みの混雑ならしますが。電車に乗る時はするつもりです。何せ、徒歩通勤なもんで、してません。「それがあかん!危機感が足らん!」と怒られるかもしれない。お客さんでも、こちらがマスクをしていて怒る人もいますし、していなくて安心する人もいます。あんまりキーキーせんでも、と言うたら、また怒られるか?


(平野)