kaibundo2009-05-18

 ■『堕落する高級ブランド』 ダナ・トーマス / 講談社 1600円+税
 パリ在住のファッション・ライター。
 「高級ブランドは単なる『製品』ではない。長い歴史によって培われた伝統であり、最高の品質を表わす象徴。同時にモノを買う欲望を十分に満たしてくれる存在」だった。
 あらゆる人間が経済的・社会的成功を目指せるようになり、いわゆる上流階級のモノが、富を誇示するモノになった。著者は「ファッションの民主化」と呼ぶ。
 小規模家族経営のブランドメーカーを大企業が買い取り(乗っ取り)、ブランド企業に変身させる。「民主化」を広げるために、誇大宣伝を展開する――歴史と伝統を強調する一方、過剰な演出のファッションショーでメディアの注目を集め、セレブや芸能人に無料で提供して自社製品を連呼させる、スポーツや大イベントのスポンサーになるなど。さらに、もっと幅広い層に行き渡らせるために、低価格のアクセサリー類を販売、世界中に店舗を出し、売れ残りをバーゲン価格で売るアウトレットを展開、ネット販売など。
 企業になると、「経営目標」のためコストを切り詰める――素材の質は低下、途上国に生産拠点、手作りから機械による大量生産、価格引き上げ、ロゴだけのTシャツや小物など安価な製品を増やすなど。
 かくして、マーケティング戦略どおりに進み、日本人が高級ブランド市場の40%以上を買うのである。その裏返しにニセモノが横行し、賢い(ズルイ)女性が複数の男性に同じ製品を買ってもらい換金するとか、買うために売春までする人もいる。次のターゲットは中国の新富裕層というのは間違いない。
 「高級ブランド産業は人々の服装を変えた。経済的階層も再構築させた。そればかりか人間関係のありかたまで変質させた」
 「利潤と言う目標を貪欲に達成したがゆえに、かつての清廉潔白さを失い、品質はむしばまれ、歴史的価値は低下し、あげくのはてには消費をだますまでになった。大衆の手に容易に届くものにしたために、大物実業家たちは、かつて高級ブランドを包んでいた“特別な輝き”をはぎとった」
 厳しく批判する。
 わてら、高級品とは無縁やもんねー。くれる言うても、いらんもんねー。♪ボロは着てても心は錦〜♪(星野哲郎)やもんねー。
 忘れとった、わて、パンツだけはブランドもんです。詳しくは海文堂HP「本屋の眼その56」をご覧ください。


(平野)