■『f植物園の巣穴』梨木香歩 / 朝日新聞出版 1400円+税
 お待ちかね、梨木香歩の長編新刊出ました。毎月のように新刊を出す作家の方もいるけれど、じっくり熟成させて考えに考えて執筆しているんだろなと思わせるのが、この梨木香歩さんです。
 出版社の惹句は、「動植物や地理を豊かにえがき、埋もれた記憶を掘り起こす会心の異界譚」というもの。文庫にもなった『家守綺譚』(私も大好きなんです)を髣髴とさせますよね。舞台が、これも一度行ってみたいと思っていた小石川植物園がモデル(らしい)というのも魅力です。表紙もクラシックで素敵です。


■『さよなら、愛しい人』レーモンド・チャンドラー / 早川書房 1700円+税
 『ロング・グッドバイ』に続いての、村上春樹の新訳です。村上春樹に導かれて海外文学を次々読んできた人は多いはず。この本もチャンドラー好きだけでなく、春樹訳ならば読んでみようと思う方々に支持されています。
 『長いお別れ』が『ロング・グッドバイ』になるのはいいとして、清水俊二訳『さらば愛しき女よ』がいかにもハードボイルドなタイトルでかっこいいのに対して、『さよなら、愛しい人』は同じ小説とは思えないですね。先入観からして取っ払ってしまおうという意欲的な新訳です。


■『ヒラタ想慕』西山裕貴 / 郁朋社 1500円+税
 ヒラタクワガタって知ってますか? 水辺のクヌギやヤナギに生息する気性の荒いクワガタだとか。そのクワガタムシをテーマにした、家族の愛と絆を描いた4編の小説集です。著者は神戸市須磨区在住。


■『マイ・ブルー・ヘブン』小路幸也 / 集英社 1500円+税
 著者が昭和の大家族テレビドラマに捧げる『東京バンドワゴン』シリーズ最新作。これまでの3作とはちょっと違って、今回は掘田家の歴史を扱っています。語り手であるサチおばあちゃんと古本屋主人勘一の出会いの頃のお話。でももちろん二人の恋愛話ではなく、終戦直後ならではの国家的なトラブルに巻き込まれるというもの。そうか、堀田家は由緒ある「ええし」の家系だったんですね。
 バンドワゴンファンは来るべきテレビドラマ化に備えて脳内キャスティングを楽しんでいると思うんですが、我南人(がなと)役にぴったりと思ってた忌野清志郎さんが亡くなられて、ショック!です。彼に代わる人はいない、のでは…


(熊木)