週刊 奥の院

月曜 新刊紹介
 本日出張作業あり、また新刊紹介なしのジャンルもあり、文芸クマキと平野のみ。
文芸クマキ
沢木耕太郎 『あなたがいる場所』 新潮社 1300円+税

 沢木さんといえば“ノンフィクション”だが、本書は初の短編小説集。数年前に日本の短編小説アンソロジーを編集。
 純文学、推理、時代、ギャンブルなどあらゆるジャンルを読んで編集。何より、少年少女にも最後まで読み通すことのできる〈わかりやすい〉短編小説を選ぶ。「自分も書いてみたいという強い思いが生まれてきた」

 その後、エッセイの依頼を受けたのだが、短編小説を書かせてもらう。書きつづけて九編になったとき「一冊にまとまるのではないか」と、沢木版「ナイン・ストーリーズ」ができあがる。

……どんなに幼い子でも読んでわかるものが書けたら……自分もまた、そうした〈わかりやすい〉短編小説を出発点として、文学の森に分け入ることができるようになったという記憶があったからだ。

伊集院静 『いねむり先生』 集英社 1600円+税

“いねむり先生”とは、敬愛する作家・ギャンブラー色川武大。持病のナルコレプシーで所構わず眠る。
 前作『お父やんとオジさん』につづく自伝的小説。主人公サブロー。
 

 二年半ほど前、ボクは長くつき合っていた若い女性とようやく所帯を持った。すったもんだしたあげくの結婚であったが、ボクなりに放埓な暮らしに終止符を打ち、再出発しようとしていた。そんな矢先に妻が癌であることがわかり、明日死んでもおかしくないと医者に宣告された。……
 妻は将来を嘱望された女優であった。二百日後、死は唐突にやってきた。やり場のない憤りと虚脱感はボクを酒とギャンブルのめり込ませた。

 アルコール依存症、幻聴、幻覚、入院……。仲介してくれる人がいて、先生に逢う。
 印象は「チャーミングな人」。共に呑み、ギャンブルをし、旅に出る(バクチの旅)。瀬戸内海に面した街の映画館。

「一本くらい観て行こうか?」
 ポスターの中で、笑っていたのは、二年前に亡くなったボクの妻だった。
「サブロー君」
「チェッ」
 先生がぼくを呼ぶのと、ボクが舌打ちしたのはほとんど同時だった。
……
「サブロー君、人は病気や事故で亡くなるんじゃないそうです。人は寿命で亡くなるそうです」
 ボクは先生の言葉の意味がよくわからなかった。
 それっきり、先生は何も言わなかった。

伊集院静 『大人の流儀』 講談社 933円+税

 エッセイ集。あまり亡妻のことは書かないそう。
愛する人との別れ〜 妻・夏目雅子と暮らした日々」
 

 人間の死というものは残ったものに大きなものを与えます。……
 親しい方をなくされて戸惑っている方は多いでしょう。私の経験では、時間が解決してくれます。だから生き続ける。そうすれば亡くなった人の笑顔を見る時が必ずきます。……数年前に観た映画でのチェチェンの老婆のせりふを紹介します。
「あなたはまだ若いから知らないでしょうが、哀しみにも終わりがあるのよ」

 平野は「神戸新聞総合出版センター」の新刊3冊。
安田泰幸 画・文 『スケッチ紀行 神戸街角ものがたり』1800円+税

 ハガキに神戸の街風景を描き続けている。
 1950年大阪生まれ、京都教育大学特修美術科卒。80年頃からハガキによるスケッチ活動。カレンダー、挿画他、郵便ハガキ・切手も描いている。カルチャー教室も。
 著書に『神戸街ものがたり』(駿台曜曜社・現在品切れ)など。
 当店では安田さんの複製画(異人館や港風景など。額入り・3200円+税)を販売。
 

 旅に出て、街を描いていると、町がコラージュのように構成されていると実感する。働く人、遊ぶ人、学ぶ人、それらの人々が活動したり、住んだりする建物、それらの人々がつくる物、身につける物、食べる物……、さまざまな営みから生まれてくるさまざまな物や事が、集まり、重なり、影響し合って街ができている。それらは美しく、快適なものばかりではなく、醜悪であったり、不快であったりするものもある。街に集まる人々の思惑や行動もばらばらで、とりとめもない。まさに街は混沌としている。しかし、一見無秩序に見える街もよく観察すると、街を形成する膨大な事象の集積が、ある性格をもっていることに気づく。地理的な条件や歴史的、文化的、社会的な条件によって、街のイメージがつくられる。

http://www.eonet.ne.jp/~yasuda-yasuyuki/


坂江渉 編著 『神戸・阪神間の古代史』 1600円+税

 播磨と比べると神戸・阪神間は新しい街のイメージ。しかしながら、この地も古代から陸海とも交通の要衝で、それなりの歴史がある。
1 神戸と芦屋  連続するミナト 海人 海産物 水軍 神社
2 六甲山と有馬  銅鐸 信仰 湯治、巡礼
3 尼崎から猪名川をさかのぼって
4 西宮から武庫川流域へ
5 総論

合田道人 文  村上保 絵 『童謡の玉手箱』 1429円+税

「さくら さくら」「われは海の子」「十五夜お月さん」「雪」……、春夏秋冬、豊かな自然と季節の行事を織り込んだ懐かしい歌。私も知らない歌が数曲あった。
 合田さんは1961年釧路生まれ、79年にシンガーソングライターとしてデビュー。近年は『童謡の謎』を執筆してベストセラーに。
 本書でも、メロディー・詩・成り立ち・題材の語源などを解説してくれる。
「さくら さくら」は、

江戸時代には、「さいた桜」という題で歌われ、初めの歌詞には桜のお花見から始まって、もみじ狩り、松まで入れられていた。明治になって学制が敷かれ、唱歌の時間ができたときに詩が改正され「さくら」の題名になった。……

(平野)

週刊 奥の院

月曜 新刊紹介
 本日出張作業あり、また新刊紹介なしのジャンルもあり、文芸クマキと平野のみ。
文芸クマキ
沢木耕太郎 『あなたがいる場所』 新潮社 1300円+税

 沢木さんといえば“ノンフィクション”だが、本書は初の短編小説集。数年前に日本の短編小説アンソロジーを編集。
 純文学、推理、時代、ギャンブルなどあらゆるジャンルを読んで編集。何より、少年少女にも最後まで読み通すことのできる〈わかりやすい〉短編小説を選ぶ。「自分も書いてみたいという強い思いが生まれてきた」

 その後、エッセイの依頼を受けたのだが、短編小説を書かせてもらう。書きつづけて九編になったとき「一冊にまとまるのではないか」と、沢木版「ナイン・ストーリーズ」ができあがる。

……どんなに幼い子でも読んでわかるものが書けたら……自分もまた、そうした〈わかりやすい〉短編小説を出発点として、文学の森に分け入ることができるようになったという記憶があったからだ。

伊集院静 『いねむり先生』 集英社 1600円+税

“いねむり先生”とは、敬愛する作家・ギャンブラー色川武大。持病のナルコレプシーで所構わず眠る。
 前作『お父やんとオジさん』につづく自伝的小説。主人公サブロー。
 

 二年半ほど前、ボクは長くつき合っていた若い女性とようやく所帯を持った。すったもんだしたあげくの結婚であったが、ボクなりに放埓な暮らしに終止符を打ち、再出発しようとしていた。そんな矢先に妻が癌であることがわかり、明日死んでもおかしくないと医者に宣告された。……
 妻は将来を嘱望された女優であった。二百日後、死は唐突にやってきた。やり場のない憤りと虚脱感はボクを酒とギャンブルのめり込ませた。

 アルコール依存症、幻聴、幻覚、入院……。仲介してくれる人がいて、先生に逢う。
 印象は「チャーミングな人」。共に呑み、ギャンブルをし、旅に出る(バクチの旅)。瀬戸内海に面した街の映画館。

「一本くらい観て行こうか?」
 ポスターの中で、笑っていたのは、二年前に亡くなったボクの妻だった。
「サブロー君」
「チェッ」
 先生がぼくを呼ぶのと、ボクが舌打ちしたのはほとんど同時だった。
……
「サブロー君、人は病気や事故で亡くなるんじゃないそうです。人は寿命で亡くなるそうです」
 ボクは先生の言葉の意味がよくわからなかった。
 それっきり、先生は何も言わなかった。

伊集院静 『大人の流儀』 講談社 933円+税

 エッセイ集。あまり亡妻のことは書かないそう。
愛する人との別れ〜 妻・夏目雅子と暮らした日々」
 

 人間の死というものは残ったものに大きなものを与えます。……
 親しい方をなくされて戸惑っている方は多いでしょう。私の経験では、時間が解決してくれます。だから生き続ける。そうすれば亡くなった人の笑顔を見る時が必ずきます。……数年前に観た映画でのチェチェンの老婆のせりふを紹介します。
「あなたはまだ若いから知らないでしょうが、哀しみにも終わりがあるのよ」

 平野は「神戸新聞総合出版センター」の新刊3冊。
安田泰幸 画・文 『スケッチ紀行 神戸街角ものがたり』1800円+税

 ハガキに神戸の街風景を描き続けている。
 1950年大阪生まれ、京都教育大学特修美術科卒。80年頃からハガキによるスケッチ活動。カレンダー、挿画他、郵便ハガキ・切手も描いている。カルチャー教室も。
 著書に『神戸街ものがたり』(駿台曜曜社・現在品切れ)など。
 当店では安田さんの複製画(異人館や港風景など。額入り・3200円+税)を販売。
 

 旅に出て、街を描いていると、町がコラージュのように構成されていると実感する。働く人、遊ぶ人、学ぶ人、それらの人々が活動したり、住んだりする建物、それらの人々がつくる物、身につける物、食べる物……、さまざまな営みから生まれてくるさまざまな物や事が、集まり、重なり、影響し合って街ができている。それらは美しく、快適なものばかりではなく、醜悪であったり、不快であったりするものもある。街に集まる人々の思惑や行動もばらばらで、とりとめもない。まさに街は混沌としている。しかし、一見無秩序に見える街もよく観察すると、街を形成する膨大な事象の集積が、ある性格をもっていることに気づく。地理的な条件や歴史的、文化的、社会的な条件によって、街のイメージがつくられる。

http://www.eonet.ne.jp/~yasuda-yasuyuki/


坂江渉 編著 『神戸・阪神間の古代史』 1600円+税

 播磨と比べると神戸・阪神間は新しい街のイメージ。しかしながら、この地も古代から陸海とも交通の要衝で、それなりの歴史がある。
1 神戸と芦屋  連続するミナト 海人 海産物 水軍 神社
2 六甲山と有馬  銅鐸 信仰 湯治、巡礼
3 尼崎から猪名川をさかのぼって
4 西宮から武庫川流域へ
5 総論

合田道人 文  村上保 絵 『童謡の玉手箱』 1429円+税

「さくら さくら」「われは海の子」「十五夜お月さん」「雪」……、春夏秋冬、豊かな自然と季節の行事を織り込んだ懐かしい歌。私も知らない歌が数曲あった。
 合田さんは1961年釧路生まれ、79年にシンガーソングライターとしてデビュー。近年は『童謡の謎』を執筆してベストセラーに。
 本書でも、メロディー・詩・成り立ち・題材の語源などを解説してくれる。
「さくら さくら」は、

江戸時代には、「さいた桜」という題で歌われ、初めの歌詞には桜のお花見から始まって、もみじ狩り、松まで入れられていた。明治になって学制が敷かれ、唱歌の時間ができたときに詩が改正され「さくら」の題名になった。……

(平野)