週刊 奥の院

kaibundo2010-06-24

週刊 奥の院 第61号 2010.6.25
■神崎清 「大逆事件を明らかにする会」監修
『革命伝説 大逆事件(1) 黒い謀略の渦』 子どもの未来社 2700円+税
 10月までに全4巻刊行。(2)密造された爆裂弾 (3)この暗黒裁判 (4)十二個の棺桶
 1947年から神崎が雑誌『世界評論』に「革命伝説」を7回にわたり連載した。その後、60年中央公論社から『革命伝説 天皇暗殺の巻』『(同) 爆裂弾の巻』を刊行。68〜69年芳賀出版版で『革命伝説』全4巻を完成させた。芳賀版を改題して、76〜78年『大逆事件――幸徳秋水明治天皇』(全4巻 あゆみ出版)を出版。本書はその「あゆみ版」を復刊。松本清張の推薦文、カバージャケットは丸木位里丸木俊の「大逆事件の図」。
 書き出しは雑誌連載時から一貫している。
明治40年11月3日の天長節、サンフランシスコの日本総領事館に貼り付けられた無政府主義の檄文「爆裂弾、破裂セントシツツアリ」。そこから「事件」のシナリオは構築された、と。
神崎の執筆は何度も中断しながら、次々集まる新資料と生存者たちの記憶によって続いていく。刑事の報告書、拘引状、被告全員の調書、証人調書、当局が押収した被告たちの書簡・日記他、検事の「訴訟記録」や被告の「獄中手記」までが手元に集まってきた。
神崎は1904(明治37)年香川県生まれ、神戸育ち、神戸二中に学んだ。東京帝大で国文学を専攻して国語の教員に。戦後は児童福祉・婦人・平和運動で活躍。79年死去。
内田樹×石川康
『若者よ、マルクスを読もう 20歳代の模索と情熱』 かもがわ出版 1500円+税
 内田さんが神戸女学院の同僚・経済理論の石川さんと書簡をやりとりしながら、初心者のためにマルクスの思想を噛み砕いて説明。今回は、『共産党宣言』『ユダヤ人問題によせて』『ヘーゲル法哲学批判序説』『経済学・哲学草稿』『ドイツ・イデオロギー』。続刊予定。
 (内田)「知性を鍛える」というのは、マルクスを覚えて、正しいと信じることではない。マルクスは現実世界のどこを見て、何を見い出そうとしていたのか――成長・変化していくマルクスの言葉にそって考え、マルクスの到達点が見えてきたら、それが本当に正しかったのかを、自分の頭で判定していく。訓練であり、材料としてマルクスを活用するということ。
(石川)マルクスとのつきあいは、研究の場面で、現代の経済であったり、政治であったり、女性の地位や家族や少子化であったり、今日的な問題を考えるためのひとつの作業として、「何か面白い視角がないかなあ」と研究のヒントを探しに行く、というような関係。
多田富雄
『残夢整理――昭和の青春』 新潮社 1600円+税
 回想記6編。
「私の記憶の中に住み着いていた、親しかった死者たちである。彼らは事あるごとに、私の脳裏を掠めてはきていたが、真剣に思い出したのは今度が初めてである。それは私にとって、一種の残夢に過ぎなかった」
「切実に思い出すと私の死者たちも蘇える。執筆中に何度となく蘇えった彼らと対話し、涙を流し、ともに運命を嘆き、そして深い諦念に身をゆだねた。切実に回想すればいつでも彼らに会えることを知った」
 
旧友の夢を見る。旧制中学からの同級生Nで、お互い文学少年。上京して同人雑誌にも参加した。貧乏学生だが、詩を読み、書き、図書館の屋上から下界を見下ろしていた。「青春の矜持」があふれ出ていた。彼の詩をE(後に高名な文芸批評家になる)が高く評価した。Eはその詩に「破滅」を感じていた。
疾風は吹いて過ぎた 棘ある曠野は泣いた、
枯れ木は、一つ、つらく立ち、
漂泊の私を、見送った、
 
 やがてNは姿を消す。Eの予感は当たった。酒に溺れ、落ちぶれた。数十年を経て、最後は身心とも病んだと手紙がきた。多田は自分の無力を嘆く。回復を祈ると返信したのみ。
 彼のために何かできなかったろうか。生きているなら、流暢なフランス語で詩を聞かせてもらい、共に「青春の矜持」を思い出したい、と願う。
 先に逝った友たち、従兄弟、学問の師、能楽の師……、多田の残夢の数々である。
萩原朔美
『劇的な人生こそ真実 私が逢った昭和の異才たち』 新潮社 1400円+税
 1946年生まれ、多摩美大教授。劇団「天井桟敷」の演出家、元『ビックリハウス』編集長。母は『蕁麻の家』の葉子、祖父・朔太郎。彼が出会った異才たちとは……。
 目次から。沼正三のプロペラ航空機 パルコを作った増田通二の更地 コルセットをした土方巽 森茉莉流ベッドに転がるテレビ 寺山修司はなぜ演出家を別格視したのか 母萩原葉子再婚話 東野研究室のドラムセット
「興味深い出来事に山ほど遭遇した。出会った人に魅了され、引きずられた体験があったから、エピソードにはみんな額縁が付いてしまった」
「事の重要さは常に後から気が付く。早く目覚めていれば、訊いてみたいことが沢山あった。知っておくべきことは限りなくあった」
 皆、旅立った人たちだが、「ホンモノの才人たち」が本書で蘇える。
津村節子
『遍路みち』 講談社 1600円+税
 カバーのバラの絵が美しい。
 吉村昭の死から3年、思い出と残った者の悲しみが切々と伝わる。自身にも病がある
 死から3ヵ月後、公私の雑務をこなしながら四国遍路のツアー(4日で29ヵ所)に参加する。彼女の悔いは、満足に介護しなかったこと。多くの仕事を抱えていた。死後見た夫の日記には、「眼を覚ますと、いない」と3日つづいて書いてあった。眠るのを見とどけては家に帰っていた。「長い長い夜何を考えていたのだろう。なぜ自分は、泊り込まなかったのだろう」。
「眼を覚ますと、いない」
 彼女の胸に突き立っていることばだ。
 夫の夢を見た。彼女も娘も孫まで、夫の姿を見た、会った、と言う。
 気の迷いであることはわかっている。
 遺言は一周忌に納骨せよ、だった。納骨を前に、その骨を「しゃり、しゃりと音をたてて噛んだ」。
■今週のもっと奥まで〜 『小説現代』7月号は〈特集10分で読める超短編官能小説〉。11編あるから毎週紹介しても……、そんな訳にはいかない。引用は、阿部牧郎『水牛の角』。大店の隠居、実直な人柄だが奇癖。離れに若い女中を呼んでは乳をまさぐる。最後まではしない、できない。老いと性の悲哀。紙版で。
■作家さんご来店
6・20(日)ジャーナリスト有田芳生さん。政治家をめざして街頭宣伝の途中、新刊『闘争記』(教育史料出版会)出版記念のトーク&サイン会。
F店長が参加人数の途中経過を報告し、あまりの少なさに恐縮したところ、「人数は関係ありません。何人の前でも一生懸命しゃべります」と言ってくださった。
黒岩比佐子『古書の森』(工作舎)刊行記念ミニフェア 人文新刊平台。
 本については次回。待ちきれない人はこちら。http://www.kousakusha.co.jp/NEWS/weekly20100622.html
成田一徹さんの新刊入荷。『東京シルエット』(創森社) これも次回。
■碧野圭さん新刊『失業パラダイス』(光文社)、次回紹介できるよう努力。
(平野)

週刊 奥の院

週刊 奥の院 第61号 2010.6.25
■神崎清 「大逆事件を明らかにする会」監修
『革命伝説 大逆事件(1) 黒い謀略の渦』 子どもの未来社 2700円+税
 10月までに全4巻刊行。(2)密造された爆裂弾 (3)この暗黒裁判 (4)十二個の棺桶
 1947年から神崎が雑誌『世界評論』に「革命伝説」を7回にわたり連載した。その後、60年中央公論社から『革命伝説 天皇暗殺の巻』『(同) 爆裂弾の巻』を刊行。68〜69年芳賀出版版で『革命伝説』全4巻を完成させた。芳賀版を改題して、76〜78年『大逆事件――幸徳秋水明治天皇』(全4巻 あゆみ出版)を出版。本書はその「あゆみ版」を復刊。松本清張の推薦文、カバージャケットは丸木位里丸木俊の「大逆事件の図」。
 書き出しは雑誌連載時から一貫している。
明治40年11月3日の天長節、サンフランシスコの日本総領事館に貼り付けられた無政府主義の檄文「爆裂弾、破裂セントシツツアリ」。そこから「事件」のシナリオは構築された、と。
神崎の執筆は何度も中断しながら、次々集まる新資料と生存者たちの記憶によって続いていく。刑事の報告書、拘引状、被告全員の調書、証人調書、当局が押収した被告たちの書簡・日記他、検事の「訴訟記録」や被告の「獄中手記」までが手元に集まってきた。
神崎は1904(明治37)年香川県生まれ、神戸育ち、神戸二中に学んだ。東京帝大で国文学を専攻して国語の教員に。戦後は児童福祉・婦人・平和運動で活躍。79年死去。
内田樹×石川康
『若者よ、マルクスを読もう 20歳代の模索と情熱』 かもがわ出版 1500円+税
 内田さんが神戸女学院の同僚・経済理論の石川さんと書簡をやりとりしながら、初心者のためにマルクスの思想を噛み砕いて説明。今回は、『共産党宣言』『ユダヤ人問題によせて』『ヘーゲル法哲学批判序説』『経済学・哲学草稿』『ドイツ・イデオロギー』。続刊予定。
 (内田)「知性を鍛える」というのは、マルクスを覚えて、正しいと信じることではない。マルクスは現実世界のどこを見て、何を見い出そうとしていたのか――成長・変化していくマルクスの言葉にそって考え、マルクスの到達点が見えてきたら、それが本当に正しかったのかを、自分の頭で判定していく。訓練であり、材料としてマルクスを活用するということ。
(石川)マルクスとのつきあいは、研究の場面で、現代の経済であったり、政治であったり、女性の地位や家族や少子化であったり、今日的な問題を考えるためのひとつの作業として、「何か面白い視角がないかなあ」と研究のヒントを探しに行く、というような関係。
多田富雄
『残夢整理――昭和の青春』 新潮社 1600円+税
 回想記6編。
「私の記憶の中に住み着いていた、親しかった死者たちである。彼らは事あるごとに、私の脳裏を掠めてはきていたが、真剣に思い出したのは今度が初めてである。それは私にとって、一種の残夢に過ぎなかった」
「切実に思い出すと私の死者たちも蘇える。執筆中に何度となく蘇えった彼らと対話し、涙を流し、ともに運命を嘆き、そして深い諦念に身をゆだねた。切実に回想すればいつでも彼らに会えることを知った」
 
旧友の夢を見る。旧制中学からの同級生Nで、お互い文学少年。上京して同人雑誌にも参加した。貧乏学生だが、詩を読み、書き、図書館の屋上から下界を見下ろしていた。「青春の矜持」があふれ出ていた。彼の詩をE(後に高名な文芸批評家になる)が高く評価した。Eはその詩に「破滅」を感じていた。
疾風は吹いて過ぎた 棘ある曠野は泣いた、
枯れ木は、一つ、つらく立ち、
漂泊の私を、見送った、
 
 やがてNは姿を消す。Eの予感は当たった。酒に溺れ、落ちぶれた。数十年を経て、最後は身心とも病んだと手紙がきた。多田は自分の無力を嘆く。回復を祈ると返信したのみ。
 彼のために何かできなかったろうか。生きているなら、流暢なフランス語で詩を聞かせてもらい、共に「青春の矜持」を思い出したい、と願う。
 先に逝った友たち、従兄弟、学問の師、能楽の師……、多田の残夢の数々である。
萩原朔美
『劇的な人生こそ真実 私が逢った昭和の異才たち』 新潮社 1400円+税
 1946年生まれ、多摩美大教授。劇団「天井桟敷」の演出家、元『ビックリハウス』編集長。母は『蕁麻の家』の葉子、祖父・朔太郎。彼が出会った異才たちとは……。
 目次から。沼正三のプロペラ航空機 パルコを作った増田通二の更地 コルセットをした土方巽 森茉莉流ベッドに転がるテレビ 寺山修司はなぜ演出家を別格視したのか 母萩原葉子再婚話 東野研究室のドラムセット
「興味深い出来事に山ほど遭遇した。出会った人に魅了され、引きずられた体験があったから、エピソードにはみんな額縁が付いてしまった」
「事の重要さは常に後から気が付く。早く目覚めていれば、訊いてみたいことが沢山あった。知っておくべきことは限りなくあった」
 皆、旅立った人たちだが、「ホンモノの才人たち」が本書で蘇える。
津村節子
『遍路みち』 講談社 1600円+税
 カバーのバラの絵が美しい。
 吉村昭の死から3年、思い出と残った者の悲しみが切々と伝わる。自身にも病がある
 死から3ヵ月後、公私の雑務をこなしながら四国遍路のツアー(4日で29ヵ所)に参加する。彼女の悔いは、満足に介護しなかったこと。多くの仕事を抱えていた。死後見た夫の日記には、「眼を覚ますと、いない」と3日つづいて書いてあった。眠るのを見とどけては家に帰っていた。「長い長い夜何を考えていたのだろう。なぜ自分は、泊り込まなかったのだろう」。
「眼を覚ますと、いない」
 彼女の胸に突き立っていることばだ。
 夫の夢を見た。彼女も娘も孫まで、夫の姿を見た、会った、と言う。
 気の迷いであることはわかっている。
 遺言は一周忌に納骨せよ、だった。納骨を前に、その骨を「しゃり、しゃりと音をたてて噛んだ」。
■今週のもっと奥まで〜 『小説現代』7月号は〈特集10分で読める超短編官能小説〉。11編あるから毎週紹介しても……、そんな訳にはいかない。引用は、阿部牧郎『水牛の角』。大店の隠居、実直な人柄だが奇癖。離れに若い女中を呼んでは乳をまさぐる。最後まではしない、できない。老いと性の悲哀。紙版で。
■作家さんご来店
6・20(日)ジャーナリスト有田芳生さん。政治家をめざして街頭宣伝の途中、新刊『闘争記』(教育史料出版会)出版記念のトーク&サイン会。
F店長が参加人数の途中経過を報告し、あまりの少なさに恐縮したところ、「人数は関係ありません。何人の前でも一生懸命しゃべります」と言ってくださった。
黒岩比佐子『古書の森』(工作舎)刊行記念ミニフェア 人文新刊平台。
 本については次回。待ちきれない人はこちら。http://www.kousakusha.co.jp/NEWS/weekly20100622.html
成田一徹さんの新刊入荷。『東京シルエット』(創森社) これも次回。
■碧野圭さん新刊『失業パラダイス』(光文社)、次回紹介できるよう努力。
(平野)