週刊 奥の院 9.28

■ 中野美代子 『なぜ孫悟空のあたまには輪っかがあるのか?』 岩波ジュニア新書 820円+税 
 カバー他イラスト、坂田靖子
 そのカバーの孫悟空の絵。彼の武器・如意金箍棒(にょいきんこぼう)の先端の輪と悟空の頭の輪。この二つの輪に深い訳がある。
 中野は北海道大学名誉教授、中国文学研究。岩波文庫西遊記』全10巻の訳者。
西遊記』は長い物語だが、あらすじはよく知られている。全巻通読した人は少ないでしょう。

……途中でほうりだしてしまうのは、あらすじだけを追いかけているからです。『西遊記』のおもしろさは、あらすじにはありません! では、どこにあるのか?
 細部です。つまり、あらすじのような骨組ではなく、細かい部分です。でも、全体を読み終えていないのに、細かい部分なんて、わかるはずはありませんね。そのとおりですが、安心してください。……

 中野先生がガイドしてくれます。

? 龍より強く金属に弱い孫悟空
? 三蔵のお供は虎からサルへ
? 『西遊記』ができるまで
? お供の弟子たち、全員集合!
? いざ、西天取経の旅へ!
? 脇役たちもおもしろい
? 苦難のかずかず、乗りこえて
? 時間と空間を自由にまたぐ
? 『西遊記』はなぜ数学にこだわるのか?

 
 唐の時代、玄奘三蔵が経典を求めてインドに行き、持ち帰ったことは史実。
西遊記』が完成したのは約900年後の明の時代。史実に神話・伝説、仏教・道教・陰陽五行思想が加えられている。
西遊記』は1592年南京の世徳堂(出版社)が出版。元(げん)の時代にも出版されたらしいが現存していない。
 作者名はないが、「呉承恩」という説が信じられている。呉は実在の人物で著作もあるが、作者という証拠はない。また、一人で書ける物語ではない。

……おそらく、すぐれたリーダーを中心とする、数人からなるグループだったのではないでしょうか。それも、自分たちの正体がばれない(原文傍点)ように覆面したグループだったのでは?
(なぜ?)
……『西遊記』という小説は、おもて向きは一から十まで仏教的、そして反道教的なのですが、ひと皮むくと、その仏教をからかったり、批判しているところが山ほどあるのです。……
(例をあげる。孫悟空という姓名を与えた須菩堤祖師(しゅぼだいそし)は道教の仙人だが、お釈迦さまの十大弟子の名をつけている。仏教からするととんでもないこと。また、三蔵一行がようやく経典をいただくときに、お釈迦さまの弟子が賄賂を要求。三蔵が拒否すると、字の書いていない経典を渡された)
……仏教と道教は、元のころから仲がよくありませんでした。とくに、道教のなかでも不老不死の丹(薬)をつくる煉丹術師たちは、秘密の記号や暗号を操作するのが得意でした。そんな煉丹術師たちは、秘密の記号や暗号を操作するのが得意でした。そんな煉丹術師たちのグループが、丹ならぬ『西遊記』という世界を煉りあげたにちがいありません。

 さて、孫悟空の輪。仙人から神通力をもらい、それをいいことに三蔵の言うことを聞かず逃走。観音様が現われて三蔵に頭巾をくれ、それが悟空の頭に輪っかになる。金箍(=たが)。三蔵が呪文を唱えると悟空の頭は痛くなる。如意棒は龍王の館の鉄の柱。龍王は最初刀を渡そうとするが、悟空は「刀は苦手」と。重い鉄の棒を自在に操れるのは両端の金箍のせいで、鉄の力を弱めている。
 悟空はサルだが、石から生まれ鉱物の性質、金属をきらう水の妖怪の性質、しかし、鉄の団子を食べ銅のスープを飲むという金属の性質。
「金属」と悟空の関係が明らかにされる。
 謎はほかにもたくさんある。



◇ うみふみ書店日記
 9月27日 金曜
「朝日」 「消える灯火 (2) 1.17感じた本の力」 http://www.asahi.com/area/hyogo/articles/MTW1309272900003.html
 京都のTさん(【海】で回文を作ってくれた詩人で僧で書物愛好家)来店。記念写真。
 S潮社Gさん、本をたくさんお買い上げ。
 B芸社Kさん、私に餞別、「スワローズ・グッズ」。彼は虎キチ
 バイト君OB・OG、営業さんが何人も。トーハンの人たち。女子の古本屋さん。
 児童書の顧客さん、『眼』お買い上げでサイン。恥ずかしがりながらも堂々とサイン。
 NR出版会から【海】写真集大量注文。明日発売の【海】透視図も注文。
 荒蝦夷から『ちくま』、H代表が【海】との関わりを書いてくれている。
『「本屋」は死なない』のIさん来店。
 京都の「観音様」からお葉書。
 皆さんありがとうございます。
 

 28日から30日、「くとうてん」と「荒蝦夷」のコーナーがレジ横に出店
『ほんまに』バックナンバー、『港町神戸鳥瞰図』『海文堂透視図』『仙台学』『仙台暮らし』(伊坂幸太郎サイン入り)などなど。

(平野)