週刊 奥の院

失業パラダイス

週刊 奥の院 第62号 2010.7.2
■碧野圭 
 『失業パラダイス』 光文社 1500円+税
 もっと早く読んで書かなければいけないのに……。はるばる海文堂を訪ね何時間も取材してブログに載せてくださった恩人に対して、申し訳が立たない。義理を欠いてはおっさんがすたる。義理で読むのか?
 はっきり言って、若い読者向けの本に手を出すのは勇気がいる。おっさんが読んでもいいのか迷う。チュウチョする。そうこうしているうちに読めるやろ、ということなのですが……。
【帯】より 
 たまにゃあ吠えろ、草食系男子
 やることない。先もない。同居の先輩はお馬鹿さん。恋人はバリバリ肉食系。そんな失業青年が出会ったのは……(略)。
 苦労は女装しても買え!
 やらせ事件に巻き込まれTV番組制作会社をクビ、失業中の敦は、一緒に失職した脳天気な先輩ディレクター・岡本が始めたペット撮影など一般人相手の映像制作会社を手伝うハメに。
 
 最初クライ。かわいそうな青年の話にページを繰るのがツライ。町中の犬たちが毎日午後5時を知らせる音楽「遠き山に日は落ちて〜」に合わせて一斉に吠える。青年よ、おまえも吠えろ、存在を知らしめよ。
 素人相手の映像制作を始めると、こちらのスピードも進む。下請けの悲哀・苦労を背負い、失業したTVマンたちの逆転成功物語とわかる、頑張れ頑張れと応援しながら読んだ。
 アホな先輩とはいえ、そこはプロ根性の男たち、素人相手でもきちんと仕上げる。且、敦を一人前に仕込んでいく。さらに、依頼人の引きこもり少女を助け、歌手の道を歩ませる。そのうえ自分たちもTVの世界に戻る。めでたし、めでたし。読んだおっさんも元気になった。
「女装」というのが気になる? 敦、美青年でそれゆえに仕事で女装させられ、失職の原因にもなるのだが、少女のためにもこれで一役買う。
「恋人は肉食系」も気になる? いろいろあるけど、二人はうまくいくので、これもめでたし。

黒岩比佐子
『古書の森 逍遥  明治・大正・昭和の愛しき雑書たち』 工作舎 3200円+税
 著者は、99年『音のない記憶――ろうあの天才写真家 井上孝治の生涯』(現在角川文庫)で作家デビュー。04年『「食道楽」の人 村井弦斎』(岩波、品切れ。なんで?)で「サントリー学芸賞」受賞。明治の作家・出版文化、食をテーマに活動。本書の原形はブログ「古書の森日記」。04年9月開設。
 長く続けられたのは、「魅力的な古書との出会い、発見、驚きを記録しておきたい、と思わずにはいられなかったから」。「読者のコメントも励みで、一人でも読者がいてくれるならその一人にために書こう」。
 ブログに、いわゆる稀覯書は登場しない。100円200円の雑本のたぐい。明治・大正の実業家で社会事業家の金原明善(きんばらめいぜん)のことば〈古書を古読せず、雑書を雑読せず〉に、「まさに我が意を得た思い」。
 その彼女、明治のグラフ雑誌を10冊ほど3万円の大散財、でも所持金足りず何冊か棚に戻したものの、スッカラカンの茫然自失状態になったとさ(08.4.5のブログ)。この話は本書未収録だそう。
がんと闘いながら精力的に執筆を続けている。また本書刊行記念のイベントもたくさん。少しでも応援になるよう、当店も彼女の著作を集めミニフェアを開催中。招福の「招布(まねぎ)」のPOPが目印。
 フリーライターの厳しい現状。
「商業ベースに乗らない本を書いている自分が悪いのだ。でも、これからもやはり時流に乗らず頑固に自分の意思を貫いていくことになるだろう。二番煎じや人の真似をするのはいやなので、誰もやりそうにないことや、儲からないのに労力はかかりそうなことを、できるだけやっていきたいのだ」
 
中島らも
『その日の天使』 日本図書センター 1600円+税
 今月7回忌を迎える。神戸では、ご家族・友人の皆さんが“中島らも七回忌懐古展――神戸らもてん”を開催される。
7.23(金)〜25(日) 神戸アートビレッジセンター 23日にはらもさんのビデオ上映とトークショー [要聴講券] 問い合わせは、神戸新聞社業務推進部 078−362−7077
本屋も協力してブックフェア(7.10〜31)。詳細は当店HPをご覧ください。
 
本書、らもさんのエッセイ・インタビューから主に人生をテーマにしたものを集める。表題のエッセイは、ドアーズのジム・モリスンの詩、“The day’s divinity,the day’s angel”から。
らもさんは「その日の神性、その日の天使」と解釈。一人の人間の一日には、必ず一人「その日の天使」がついている。少女であったり子どもであったり、警官や酔っ払い、犬……、絶好調のときには、これらの天使は見えない。「絶望的な気分に堕ちているときには、この天使が一日に一人だけ、さしつかわされていることに、よく気づく」。らもさんの体験だと、落ち込んで自殺を考えたときに、とんでもない知人から電話がかかってきたり、偶然開いた画集の絵で救われたり。
 体調が悪く、仕事が山積していたある日に会った天使は、
「♪おっいも、おっいも、ふっかふっかおっいも……」
という歌だった。
「わが葬儀」というのがある。若い頃にムチャをしているので長生きはしない。死体は、使えるところはみんな他人のために使ってほしい、残った部分は魚のエサにしてほしい、お墓はいらない。
「僕という存在の喪失がしばらくの間人々の間に影を落とし、やがてその影が薄れていって、僕はほんとうの『無』になる。そういうのがいい」

成田一
『東京シルエット』 創森社 1600円+税
 朝日新聞東京版で2年9ヵ月連載した“切り絵とエッセイ”「東京シルエット」。取材地111ヵ所、本書のために4ヵ所追加。
 第1章 飲食処の日々  接客の世界に生きてきた人の魅力ある人生
 第2章 芸の灯ここに  華やかなステージを間近にしたアーティストたちの生の迫力
 第3章 技ありの世界  至高の技に取り組む職人たちの気概
 第4章 街に吹く風   東京の情景
 第5賞 この場所で   良き時代の面影を残す東京

 出版関連では、旧江戸川乱歩邸、谷根千工房集英社ジャンプ編集室他、文人ゆかりのバーなど。
 7.18(日)サイン会決定。詳細はHPをご覧ください。

◇今週のもっと奥まで〜
田中貴子(国文学者 前紹介した甲南大学の先生)
田中圭一(漫画家、手塚治虫風の絵。そういえば手塚さんの女性は色っぽい)
 ふたりは夫婦でも親戚でもなさそう。
『セクシィ古文』 メディアファクトリー新書 720円+税 
目次だけですごい。
第1章  すごいアソコ
第2章  同性愛もOK,OK!
第3章  ひとりエッチ
第4章  THE変態!
第5章  普通のセックス?
  
 各章にふたりの対談あり。引用は紙版にて。
(平野)

週刊 奥の院

週刊 奥の院 第62号 2010.7.2
■碧野圭 
 『失業パラダイス』 光文社 1500円+税
 もっと早く読んで書かなければいけないのに……。はるばる海文堂を訪ね何時間も取材してブログに載せてくださった恩人に対して、申し訳が立たない。義理を欠いてはおっさんがすたる。義理で読むのか?
 はっきり言って、若い読者向けの本に手を出すのは勇気がいる。おっさんが読んでもいいのか迷う。チュウチョする。そうこうしているうちに読めるやろ、ということなのですが……。
【帯】より 
 たまにゃあ吠えろ、草食系男子
 やることない。先もない。同居の先輩はお馬鹿さん。恋人はバリバリ肉食系。そんな失業青年が出会ったのは……(略)。
 苦労は女装しても買え!
 やらせ事件に巻き込まれTV番組制作会社をクビ、失業中の敦は、一緒に失職した脳天気な先輩ディレクター・岡本が始めたペット撮影など一般人相手の映像制作会社を手伝うハメに。
 
 最初クライ。かわいそうな青年の話にページを繰るのがツライ。町中の犬たちが毎日午後5時を知らせる音楽「遠き山に日は落ちて〜」に合わせて一斉に吠える。青年よ、おまえも吠えろ、存在を知らしめよ。
 素人相手の映像制作を始めると、こちらのスピードも進む。下請けの悲哀・苦労を背負い、失業したTVマンたちの逆転成功物語とわかる、頑張れ頑張れと応援しながら読んだ。
 アホな先輩とはいえ、そこはプロ根性の男たち、素人相手でもきちんと仕上げる。且、敦を一人前に仕込んでいく。さらに、依頼人の引きこもり少女を助け、歌手の道を歩ませる。そのうえ自分たちもTVの世界に戻る。めでたし、めでたし。読んだおっさんも元気になった。
「女装」というのが気になる? 敦、美青年でそれゆえに仕事で女装させられ、失職の原因にもなるのだが、少女のためにもこれで一役買う。
「恋人は肉食系」も気になる? いろいろあるけど、二人はうまくいくので、これもめでたし。

黒岩比佐子
『古書の森 逍遥  明治・大正・昭和の愛しき雑書たち』 工作舎 3200円+税
 著者は、99年『音のない記憶――ろうあの天才写真家 井上孝治の生涯』(現在角川文庫)で作家デビュー。04年『「食道楽」の人 村井弦斎』(岩波、品切れ。なんで?)で「サントリー学芸賞」受賞。明治の作家・出版文化、食をテーマに活動。本書の原形はブログ「古書の森日記」。04年9月開設。
 長く続けられたのは、「魅力的な古書との出会い、発見、驚きを記録しておきたい、と思わずにはいられなかったから」。「読者のコメントも励みで、一人でも読者がいてくれるならその一人にために書こう」。
 ブログに、いわゆる稀覯書は登場しない。100円200円の雑本のたぐい。明治・大正の実業家で社会事業家の金原明善(きんばらめいぜん)のことば〈古書を古読せず、雑書を雑読せず〉に、「まさに我が意を得た思い」。
 その彼女、明治のグラフ雑誌を10冊ほど3万円の大散財、でも所持金足りず何冊か棚に戻したものの、スッカラカンの茫然自失状態になったとさ(08.4.5のブログ)。この話は本書未収録だそう。
がんと闘いながら精力的に執筆を続けている。また本書刊行記念のイベントもたくさん。少しでも応援になるよう、当店も彼女の著作を集めミニフェアを開催中。招福の「招布(まねぎ)」のPOPが目印。
 フリーライターの厳しい現状。
「商業ベースに乗らない本を書いている自分が悪いのだ。でも、これからもやはり時流に乗らず頑固に自分の意思を貫いていくことになるだろう。二番煎じや人の真似をするのはいやなので、誰もやりそうにないことや、儲からないのに労力はかかりそうなことを、できるだけやっていきたいのだ」
 
中島らも
『その日の天使』 日本図書センター 1600円+税
 今月7回忌を迎える。神戸では、ご家族・友人の皆さんが“中島らも七回忌懐古展――神戸らもてん”を開催される。
7.23(金)〜25(日) 神戸アートビレッジセンター 23日にはらもさんのビデオ上映とトークショー [要聴講券] 問い合わせは、神戸新聞社業務推進部 078−362−7077
本屋も協力してブックフェア(7.10〜31)。詳細は当店HPをご覧ください。
 
本書、らもさんのエッセイ・インタビューから主に人生をテーマにしたものを集める。表題のエッセイは、ドアーズのジム・モリスンの詩、“The day’s divinity,the day’s angel”から。
らもさんは「その日の神性、その日の天使」と解釈。一人の人間の一日には、必ず一人「その日の天使」がついている。少女であったり子どもであったり、警官や酔っ払い、犬……、絶好調のときには、これらの天使は見えない。「絶望的な気分に堕ちているときには、この天使が一日に一人だけ、さしつかわされていることに、よく気づく」。らもさんの体験だと、落ち込んで自殺を考えたときに、とんでもない知人から電話がかかってきたり、偶然開いた画集の絵で救われたり。
 体調が悪く、仕事が山積していたある日に会った天使は、
「♪おっいも、おっいも、ふっかふっかおっいも……」
という歌だった。
「わが葬儀」というのがある。若い頃にムチャをしているので長生きはしない。死体は、使えるところはみんな他人のために使ってほしい、残った部分は魚のエサにしてほしい、お墓はいらない。
「僕という存在の喪失がしばらくの間人々の間に影を落とし、やがてその影が薄れていって、僕はほんとうの『無』になる。そういうのがいい」

成田一
『東京シルエット』 創森社 1600円+税
 朝日新聞東京版で2年9ヵ月連載した“切り絵とエッセイ”「東京シルエット」。取材地111ヵ所、本書のために4ヵ所追加。
 第1章 飲食処の日々  接客の世界に生きてきた人の魅力ある人生
 第2章 芸の灯ここに  華やかなステージを間近にしたアーティストたちの生の迫力
 第3章 技ありの世界  至高の技に取り組む職人たちの気概
 第4章 街に吹く風   東京の情景
 第5賞 この場所で   良き時代の面影を残す東京

 出版関連では、旧江戸川乱歩邸、谷根千工房集英社ジャンプ編集室他、文人ゆかりのバーなど。
 7.18(日)サイン会決定。詳細はHPをご覧ください。

◇今週のもっと奥まで〜
田中貴子(国文学者 前紹介した甲南大学の先生)
田中圭一(漫画家、手塚治虫風の絵。そういえば手塚さんの女性は色っぽい)
 ふたりは夫婦でも親戚でもなさそう。
『セクシィ古文』 メディアファクトリー新書 720円+税 
目次だけですごい。
第1章  すごいアソコ
第2章  同性愛もOK,OK!
第3章  ひとりエッチ
第4章  THE変態!
第5章  普通のセックス?
  
 各章にふたりの対談あり。引用は紙版にて。
(平野)